日本でも数少ない老眼対策のエキスパートで、話題の書籍『100歳アイ』の著者でもある眼科医・伊勢屋貴史さんへの特別インタビュー。今回は老眼の症状を大幅に悪化させてしまい、使う人を負のループに陥れるという「老眼招き眼鏡・コンタクト」の恐ろしさについて聞きます。(構成 言語化工房)

【眼科医が警告】遠くがよく見える眼鏡ほど危険? 老眼を早める意外な理由Photo: Adobe Stock

「老眼の症状」を進行させてしまう「老眼招き眼鏡」や「老眼招きコンタクト」とは?

――子どものころよく「本やゲームと目の距離が近すぎると目が悪くなる」と言われました。それと同じように、老眼になりやすい行動ってありますか?

老眼の原因となる水晶体の硬化は基本的に年齢とともに進んでしまうのですが、「近くが見えにくい」ことに代表される「老眼の症状」を進行させてしまう恐れがある行動はいくつかあります。その代表と言えるのが、「老眼招き眼鏡」や「老眼招きコンタクト」を使うことです。

――老眼招き眼鏡にコンタクト! 響きからして恐ろしいですね。安価な眼鏡やコンタクトがよくないのですか。

いいえ、そんな単純な話ではありません。問題は、多くの日本人が持っている間違った意識、間違ったイメージです。

――間違ったイメージ? いったいどういうことでしょうか?

多くの人は、「目がいい」イコール「遠くがよく見えること」だと思い込んでいます。それが問題なんです。小学校の視力検査を思い出してみてください。片目を隠して、遠くの小さな「C」のマークを見て、右とか上とか下とか答えましたよね。同級生みんなが見ている前で。

――はいはい、やりました。小さな「C」まで見える子はちょっとしたヒーロー扱いでしたよね。「はい、1・2」「おおーっ」みたいな。

そうそう。逆にあまり見えないと、何だか肩身が狭いんですよね。あの検査で測る数値を一般的に「視力」と呼ぶわけですが、実は測っているのは「遠くを見る力」です。つまり「視力がいい」というのは「遠くを見るのが得意」というだけの意味なんです。日常生活では近くも遠くも中間も、止まっているものも動いているものも見るのに、多くの人は「遠くがよく見えるのがいいことだ」という感覚を持ってしまっています。

「老眼の症状」を進行させてしまう「近視の過矯正」とは?

――確かにそうですね。でも、何が問題なのでしょう?

遠くがよく見えるのはいいことだという思い込みが強いために、眼鏡やコンタクトを作るとき、多くの人は遠くがよく見えすぎるレンズを選んでしまいます。眼科の言葉で「近視の過矯正」というのですが、これがしばしば老眼の症状を進行させてしまうんです。

――過矯正。矯正しすぎているということですね。

近視用の眼鏡やコンタクトは、目の見え方全体を「遠く側」にずらすことで、遠くを見やすくする仕組みです。レンズを通すと遠くのものはよく見えるようになる半面、近くの見え方にはマイナスに働きます。ある程度は仕方がないのですが、遠くの見え方を重視し過ぎたレンズを使うと近くが見にくくなり過ぎて、近くを見るためにより大きな調整力が必要になります。つまり、近視過矯正の眼鏡をかけると、老眼の症状が大幅に進行した、場合によっては数年後の老眼の症状と同じ見え方になってしまうんです。

――なるほど、だから老眼招き眼鏡ですか。

それだけではないのです。近くが見にくくなるので、目の中の毛様体筋は常にパンパンに膨らんで疲労し、こり固まりますし、よく見えない文字や画像を解読する脳も疲れ果てます。脳の疲れは全身の疲労感や倦怠感を招きますから、結果として目で、首や肩で、そして全身で「もうトシだ」と実感することになります。

「過矯正が過矯正を招く」という負のループに陥る可能性が高い

――老眼招き眼鏡、想像以上に恐ろしいです……。

いえ、もっと恐ろしいのは、「過矯正が過矯正を招く」という負のループに陥る可能性が高い点にあります。今言ったように、近視過矯正のレンズを通すと近くが見えにくくなるので、毛様体筋は全力で膨らんで近くにピントを合わせようとします。この状態が続くと、今度は膨らんだ状態でこり固まってしまい、遠くにピントを合わせるのが難しくなります。すると「遠くが見えにくくなった」と感じるので、どんどん強い度数のレンズを求めてしまうのです。

――ちょっと待ってください、それじゃほとんど中毒じゃないですか! どうやったら抜け出せるんですか。

子どものころから染みついた、「遠くが見えるのはいいことだ」という間違ったイメージを捨て去ることです。この思い込みが本当に罪深いんです。眼科医や眼鏡店の担当者は近視過矯正の怖さを知っているので「もう少しマイルドな度数にしては」とご提案するのですが、なかなか聞き入れてもらえないことが多いんですよね。2021年に行われたネット調査によると、日本で生活する20歳代以上の実に74.2%の人が眼鏡かコンタクトを使っています。そして、老眼が深刻になる40歳代以上を除くと、眼鏡やコンタクトを使っている人の大半は近視が理由です。
これだけ多くの人が、今も「老眼招き眼鏡・コンタクト」のリスクにさらされていると考えると、とても胸が痛みます。このインタビューを読んだ人はぜひ、「視力至上主義」を捨てる勇気を持っていただきたいです。

夕方や夜に眼鏡・コンタクトを作ってはいけない

――過矯正の恐ろしさを心に刻みますし、友人や家族にも伝えたいと思います。

実は、度数が強すぎる眼鏡は、使う人にとっても違和感や不快感を伴います。そこで「あれ? ちょっと違うな」と気付いて、自力で過矯正の負のループに陥らないよう踏みとどまっている方もたくさんいます。ところが、そんな人さえも過矯正のループに突き落とす危険な行動があるんです。それは、「夕方や夜に眼鏡・コンタクトを作る」ことです。

――えっ! 夕方や夜はダメなんですか?

30歳代後半の男性からこんな話を聞きました。彼はある日の会社帰り、ふと思い立って閉店間際の眼鏡ショップに立ち寄りました。店頭の測定器で視力を測ってもらい、できあがった新しい眼鏡をかけて店を出ると、遠くの看板までくっきり見えていい感じ。ちょっとおしゃれなフレームで周囲の評判も上場でした。ところが、新しい眼鏡を使い始めて間もなく、スマホの文字が見えにくいことに気付きます。30歳代なのに老眼? まさか? と不安になっているうちに、今度は遠くのものも見えにくくなってきました。いかん、もっとよく見える眼鏡を作らなくては……。

――わぁ、もうわかります。近視過矯正ですね。夜に眼鏡を作ったのがよくなかったということですか。

30歳代後半ともなると、目の調整力は知らないうちに衰えています。朝から一日中書類やモニターを見つめた目はもうへとへとに疲れてこり固まっていますから、すぐに遠くにピントを合わせるのが難しい状態です。さらに、一日働いた目は涙が足りないドライアイにもなりやすく、おなじみの「C」もすっかりかすんで「O」に変身してしまいます。このように、一日働いて目が疲れている夜や夕方の目は、普段とは全く違う見え方になりがちです。その状態で作った眼鏡を、目がフレッシュな状態にある朝や昼に使うと、度数が強すぎるのです。近視過矯正による負のループに陥らないためには、眼鏡やコンタクトは午前中、できればしっかりと睡眠を取った状態の朝に作るのがおすすめです。

――仕事が忙しくて夜しか無理、という人はどうすればいいですか。

そんなときは、「今、自分の目はいつもとは違う、遠くを見にくくなっている」という点を頭に入れて、弱めの度数にするよう心がけてください