誰にでも「苦手なタスク」があります。そして、そのようなタスクをしていると、それだけでぐったりと疲れてしまい、成果も出ません……。そんなとき、「苦手意識」を克服しようと努力すればするほど、消耗の度合いを深めるだけです。ではどうすればよいのか? 心理的リソースという概念を提唱して話題となってい 『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』の著者・櫻本真理さんにわかりやすく解説していただきました。

「苦手意識」は克服しなくていい…成果を出す人の「意外な思考法」とは?Photo: Adobe Stock 写真はイメージです

イチローは、「嫌い」を克服しない

 自分を変えたいと思ったとき、多くの人がぶつかるのが「苦手意識」です。

 たとえば、不本意だった営業部門への異動を命じられたとしましょう。実際にやってみても、うまくいかない。「やっぱり、営業は苦手だ……つらい……」。そんな苦手意識が心に根を張ってしまったとき、あなたはどうしますか?

 真面目な人ほど、「克服しなければ」と考えます。そして、「苦手なことにも我慢して向き合うべきだ」と自分に言い聞かせるのです。

 しかし、イチロー選手は小学生にこう答えています。

「嫌いを好きにするのは無理。嫌いなトレーニングはやらなかった。続けることが大事なので」

 意志の強さで知られるイチロー選手でさえ、「嫌いに耐える能力はない」と言うのです。
 その代わり、トレーニング・メニューを好きな形にアレンジして続けられる方法を選んだのです。

 このイチロー選手の判断は、「心理的リソース」の視点からも正しいと言えます。

「苦手意識」は心理的リソースを消耗する

「心理的リソース」とは、誰もが持っている有限の「心のエネルギー」のこと。何かを考えたり決めたりするときはもちろん、「我慢する」ときにも消費されます。言うまでもなく、心理的リソースを消耗すると、やる気も枯渇してしまいます。

 心理的リソースの観点で考えると、「苦手」とは能力の問題ではありません。つまり、能力がないから「苦手」なわけではないということです。そうではなく、「苦手」とは、「それをやろうとすると大量の心理的リソースを消費すること」だと考えるのです。

 たとえば「営業が苦手」な人は、「あぁ、嫌だなぁ」「断られたらどうしよう」と、準備の段階から強いストレスを感じて、心理的リソースを大量に消耗してしまいます。結果として、本番が終わる頃にはぐったりしている。

 これでは営業のプロセスを楽しんでいる人を超えるパフォーマンスを上げることは不可能ですし、いずれ燃え尽きてしまうでしょう。

 では、どうすればいいのでしょうか?

 苦手なものとそのまま向き合おうとすると、抵抗感や不安がじわじわと心理的リソースを奪ってしまいます。そんなときに大切なのは、「苦手なこと」とそのまま向き合うことで消費している心理的リソースを、「苦手なことを分解する」ことに振り向けることです。

因数分解すると、「苦手」の本当の姿が見えてくる

 たとえば、「営業が苦手」とひとまとめに捉えるのではなく、その「苦手」を次のように因数分解すると、より解像度高く捉えることができます。

・アポイントを取る電話をするのが嫌
・断られるのが怖い
・質疑応答が苦手
・価格交渉が苦手
・資料作成に時間がかかる

「苦手意識」は克服しなくていい…成果を出す人の「意外な思考法」とは?

 そして、「営業が苦手だ」と考えているよりも「アポ取りの電話は苦手だ」と考える方が、具体的な対応策も見えやすくなります。アポ取りが得意な人に「コツ」を教えてもらってもいいかもしれないし、電話以外でアポ取りをする方法を考えてもいいかもしれない。そうすることで、「アポ取り」に対する苦手意識は消えていくかもしれません。

「苦手」のサイズが大きければ大きいほど、漠然とした苦手意識や不安に心理的リソースを奪われ続けることになります。そこで、「苦手」を分解することによって、「苦手」のサイズを小さくする。そうすれば、それを乗り越える方法も見つけやすくなります。こうして、心理的リソースを有効活用することができるようになるのです。

 苦手と戦うのではなく、分解して、形を変える。
 それが、「苦手意識」を乗り越えて成果を出すための、心理的リソース活用法です。

(心理的リソースについては、『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』に詳しく書いてあります)

櫻本真理(さくらもと・まり)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。著書に『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』(ダイヤモンド社)。