部下の願いをかなえる――。これは、チームの力を引き出すうえで、上司が常に意識をしておくべきことです。とはいえ、部下にとって不本意な業務を担当してもらう必要があるなど、常に部下の願いを実現することができないのが現実。そんなときに、どうすれば前向きに仕事に向き合ってもらえるのか。この記事では、新刊『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』(櫻本真理・著)から抜粋しながら、部下の願いを叶えられないときの、上司の対応策についてお伝えします。

部下に「不本意な仕事」を頼むときに、デキる上司が考えていることPhoto: Adobe Stock 写真はイメージです

メンバーの「願い」を否定してはならない

 メンバーの「願い」を大切にする――。
 これは、メンバーの心理的リソースを増やすうえでとても大切なことです。

 とはいえ、メンバーの願いを、いつも叶えられるとは限りません。
 たとえば、メンバーが希望する仕事があったとしても、必ずしもその仕事を用意することができるわけではありません。そんなときに、メンバーの心理的リソースの消耗を最小限に抑えるためには、どうすればいいのでしょうか?

 事例を通して考えてみましょう。
 ある部署への配属の決まった熊野さんは、面談の場で率直に希望を語りました。

「私は、人と直接関わるような仕事がしたいんです。人と関わるのが大好きなので。お客様や社内のメンバーとやり取りしながら進めるような役割に挑戦したいと思っています」

 しかし、リーダーの山川課長には別の考えがありました。
 今のチームで補強する必要があるのは、企画や営業を支えるアシスタント業務でしたから、熊野さんにはその役割を担ってほしかったのです。

 アシスタント業務は、資料作成やスケジュール調整などデスクワークが中心で、企画や営業ほど人と直接コミュニケーションをとる機会は多くはありませんから、熊野さんの希望通りとは言えません。

 このような場合に、「あなたにお願いしたいのは、アシスタント業務です。あなたの希望には添えませんが、我慢してください」などと伝えてしまえば、熊野さんのやる気を大きく損ねるのは言うまでもありません。

まずは、メンバーの「願い」を受け取る

 ここで大切なのは「まず、否定せずに受け止める」ことです。

 山川課長はこう言いました。
「熊野さんが“人と関わる仕事をしたい”と思っている気持ち、よくわかりました。その願いをもっていること自体が大事だと思います」

 そのうえで、「人と関わる仕事がしたい」という熊野さんの「願い」の具体的な内容や、その奥にある「本当の願い」を掘り下げる質問をします。

「熊野さんにとって“人と関わる仕事”って、具体的にどんな関わり方をイメージしていますか? どんな場面で喜びを感じるんでしょうか?」

 熊野さんは少し考えたあと、こう答えました。

「そうですね……。先日、ご高齢のお客様から『商品の使い方がわからない』というお電話を受けたんです。
最初はちょっと怒ってらっしゃるような口調でした。でも、丁寧にご説明したら、『ありがとう』って、すっごく喜んでくださって……そんなときに、ああ、仕事って素晴らしいなって心の底から思うんです。
 だから、私はきっと、人の役に立つのが好きなんです。お客様や他部署の人と直接やり取りして、感謝してもらえたり、信頼していただけるような経験をもっとしたいんです」

 このように、相手にとって印象に残っている「具体的な場面」を尋ねることには、大きな意味があります。

 熊野さんが、ご高齢のお客様とのエピソードを思い出すことで、「人と関わる仕事がしたい」という言葉のさらに奥にある、「人の役に立って、感謝されたり、信頼されるような経験がしたい」という「本当の願い」が顕在化するといったことが起きるからです。