スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。
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米Instacartが成功した理由
それでは、「課題の質」は何によって決まるのだろうか?
それはファウンダー(創業者)が次の4つの要素をどれだけ持つかに依存する。
1.高い専門性
2.業界(現場)の知識
3.課題の構造的な理解
4.市場環境の変化に対する理解度
専門的な視点、業界知識、課題の構造的な理解、経験。
これらが極めて重要であり、しかも、ファウンダー個人に求められる。
この点については後で詳しく説明するが、一例を挙げるならば、スタートアップの米Instacart(インスタカート)がある。
同社は、スマホなどで注文すると近所のスーパーなどでの買い物を代行してくれるサービスを提供する。2012年に創業し、2023年9月にNASDAQ(ナスダック)に上場を果たした(上場時の株価は93億ドル/当時のレートで1.4兆円)。
インスタカートを立ち上げたのは、Amazon出身のエンジニアだ。
彼はAmazonの物流システムであるFBA(フルフィルメント by Amazon:注文を受けた商品の梱包から発送、決済まですべてAmazonが代行する)の構築に携わっていたので、物流を熟知していた。
物流と小売りの関係も理解しており、流通業界についての深い洞察も持っていた。また、ちょうどスマホが浸透してきた時期だったので、タイミングもよかった。
インスタカートは、食品の品質が直接確認できないECの欠点を補うべく、既存のスーパーとの共存共栄というサービスを生み出した。
専門性や知識、市場環境の変化について理解があったため、課題の質が高いビジネスアイデアを思いつけたのだ。
自分ごとの課題を解決せよ
実は、課題の質を高めるには、もう一つの要素がある。
それは、ターゲットとする課題が「自分ごと」であるかどうかだ。
言語学習サービス、Duolingo(デュオリンゴ)の創業者のルイス・フォン・アーン氏は、グアテマラ出身で、自身が英語を学ぶのに苦労した経験があった。
彼は、高価な語学スクールに通えないような人々(学習を始めた頃の自分のような)にも、良質な教育機会を提供したいという思いから「無料で誰でも言語学習ができるプラットフォーム」を構想したのだ。
また、高性能掃除機を発明した英Dyson(ダイソン)のジェームズ・ダイソン氏は、もともとインダストリアルデザイナーで、きれい好きな性格だった。従来の紙パックの掃除機の吸い込みの弱さやパックの交換が面倒臭くて大きな憤りを覚えたことから、サイクロン式掃除機の開発に着手した。
これらは、自分が痛みを感じている具体的な課題から始まり、その課題を自分ならどう解決するかという順番でビジネスアイデアが形成されている。
だから、自分ごとの課題が見えたら、次のように自問してみるといい。
「もし魔法の杖があって、課題を解決するためにソリューションを出してくれるとしたら、どんなものがいいか?」(これは「魔法の杖質問」という。第3章で詳しく説明する)。
そこから導き出される答えの中に、ダイヤの原石がきっとある。
また、自分ごとの課題といっても、必ずしも本人が当事者である必要はない。
周りの身近な人が抱えている課題でも、その課題の痛みをしっかり理解しているのであれば、一向に構わない。
(本稿は『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。




