子どもに算数が得意になってほしいと思う親は多い。それゆえ、春休みに先どり計算ドリルをやらせようと意気込む親もいるだろう。これまで何千、何万という親子を見てきた花まる学習会代表の高濱正伸先生は計算ドリルをさせるより大事なことがあると言う。そんな高濱先生が「感動した! これをやればほんとうに算数が好きになって頭が良くなっちゃう!」と絶賛する書籍『たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本』は開成や灘中などの超有名私立中学入試の図形問題だけをマンガやイラストを使いながら解説する本だ。本記事は高濱先生に算数を得意にさせたかったら計算ドリルよりも大事なことを伺った。(取材・構成/山守麻衣・ダイヤモンド社 淡路勇介)

たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本Photo: Adobe Stock

AI時代に必要な思考力とは?

――算数が得意になってほしくて、計算ドリルを先どりでさせる親御さんは多いですよね。

高濱正伸氏(以下、高濱):早期教育はあんまり意味がないと、研究でわかってるんです。でも親としては少しでも算数が得意になってほしくて、先どりでやらせたくなる。上の学年の計算問題が解けるようになると、頭が良くなった気になりますからね。もちろん計算や漢字など、基礎をしっかり身につけることは大切ですし、どんどん上の学年の範囲まで計算ができるようになって自信が付いて算数が好きになることもあるでしょう。でもそれだけに貴重な幼少期の時間を費やすのはもったいない、というのが私の考えです。計算問題を速く正確に解けるようになっても、文章題になると壁に当たったり、思考力を要する問題の解き方が何も浮かばなかったり――そんなお子さんも珍しくありません。

――では、本当に必要な力とは何でしょうか。

高濱:私がずっと言い続けているのが「補助線を引く力」です。AIは計算問題であれば東大の入試だって解けます。しかし図形問題は苦手です。なぜなら、こちらで引いてうまくいかなければ別の方向を試す、という試行錯誤ができないからです。まだ見えていない線を「発見する」力――これはまさに人間にしかできない思考なのです。有名私立中学の入試問題でも、補助線を引けるけどうかを試す問題が数多く出ます。算数が得意になるかどうか、考えるのが好きになるかどうかは、図形問題が得意になるかが鍵を握ると言っても過言ではありません。

たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本『たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本』にも天才的な補助線を引けるかを試す難関中の図形問題が出てくる

まだ見えていない線を発見する力はどうすれば身につくのか?

――補助線を引く力は、どうすれば育つのでしょうか。

高濱:遊び込むしかないです。ただの枝を何かに見立てるような自由な遊びのほうが、整った知育玩具よりも絶対に本質的です。枝を魔法の杖にしたり、剣に見立てたり、宝物にしたり――子どもが自由に「見立てる」遊びこそが、将来補助線を引く力の土台になります。

 ところが今の子どもたちには、そんな時間が圧倒的に足りていない。枝を拾ってすぐ親が「ダメ、危ないから」と取り上げてしまう。せっかく将来の受験に必要な能力を積んでいる可能性があるのに、そのチャンスを潰してしまっているのです。

ドリルを置いて、外に行こう

――親御さんへのメッセージをいただけますか。

高濱:今すぐ計算ドリルを脇に置いて、子どもを外に出してほしいですね。公園で枝を拾い、泥で遊び、虫を追いかける――そのすべてが、将来の「補助線を引く力」になっていくのです。みずから問いを立て、自分の手で補助線を引き、何度でもやり直す――そんな大人の姿を見せることも大切だと思います。

<本稿は『たった1日で誰でも開成・灘中の算数入試問題が解けちゃう本』(菅藤佑太著)に関するインタビュー記事です>

高濱正伸(たかはま・まさのぶ)
花まる学習会代表。算数オリンピック作問委員
1959年、熊本県生まれ。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。1993年、幼児・小学生向けの学習教室・花まる学習会を設立。作文・読書・思考力・野外体験を重視したユニークな教育手法は、テレビ「情熱大陸」「カンブリア宮殿」「ソロモン流」など数多くのメディアに紹介されて大反響。子育てに悩む母親の救世主とも称される。