量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。
そんな量子コンピュータの実現方法は大きく分けて、超伝導量子ビット方式、イオントラップ方式、冷却中性原子方式、半導体量子ビット方式、光方式の5つがある。
今回はその中でも光方式について抜粋してお届けする。
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4大方式の振り返り
今まで紹介してきたように、半導体量子ビット方式や超伝導量子ビット方式は、固体部品をマイクロ波で制御するため、量子ビットの読み出しなど計算速度が速いという利点がある。
一方で、電気回路は人工的に作られるものなので製造の過程でのばらつきなどがエラーの原因になる。
イオントラップ方式や冷却中性原子方式は、自然界にすでにある「原子」を量子ビットとして用いているため、量子ビットの個性がばらつくことはない。
神が創りし完璧な量子ビットといえよう。
しかし、量子ビット同士の相互作用は弱く、その結果、量子ゲートの速度が遅くなってしまうのがデメリットだ。
アルゴリズム側でこのようなデメリットをどのように補完できるかが、これらのアプローチの鍵を握る。
超ダークホースの方式とは?
そして、最後に“ダークホース”として光方式の量子コンピュータを挙げたい。
これまで紹介した4つの方式はすべて「質量を持つ物質」を量子ビットとして用い、光で制御しているのに対し、光方式は「光そのもの」が量子ビットになる。
計算に光のかたまりを使うのだ。
光方式は、光子一つひとつを量子ビットとして用いる方式と、連続的なパルスに量子ビットを埋め込む方式に分かれている。
ともに技術的な課題は残されているが、実現すれば時間をずらして光を発生させることで量子ビット数を増やすことができる。
さらに、普通の環境(常温・常圧)で動かせるため、比較的簡素な装置で大規模化が狙え、かつ半導体量子ビット方式と同じように、これまで培われてきた光通信技術も活用できるのだ。
衝撃の1000億円投資
光方式では、先述したカナダのザナドゥ社とアメリカのサイクオンタム社(PsiQuantum)が先頭を走っている。2022年にザナドゥ社は汎用性が低いものの、特殊な用途に利用できる量子コンピュータを発表し、翌日にはアマゾンウェブサービスで公開した。
最先端の研究成果を、翌日からネットで誰でも利用できるようにし、その使い道を探索できるというのがこの分野の展開の速さを表している。
一方、サイクオンタム社は、エラー訂正機能を持つ大規模な誤り耐性量子コンピュータの開発に照準を絞り、多くの研究者を雇用しているが、まだハードウエアの全貌は明らかにされていない。
いまは、アメリカ半導体製造の大手であるグローバルファウンドリーズ社(GlobalFoundries)と協力して、光量子コンピュータ用チップの開発を進めている。
2024年7月には、オーストラリアはサイクオンタム社に1000億円規模の投資を行い、2027年までに同社の量子コンピュータを設置すると発表している。
日本では、黎明期から光量子コンピュータで世界トップの成果を上げてきた古澤明が関わる東大発のスタートアップ、オプトキューシー(OptQC)が2024年に創業した。
産業技術総合研究所、量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センターにオプトキューシーの商用機が構築される予定だ。
(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)





