量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。
そんな量子コンピュータの実現方法は大きく分けて、超伝導量子ビット方式、イオントラップ方式、冷却中性原子方式、半導体量子ビット方式、光方式の5つがある。
今回はその中でもイオントラップ方式について抜粋してお届けする。
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イオントラップ方式とは?
超伝導量子ビット方式の次に研究者が多い方式が、イオントラップ方式である。
イオントラップは、真空のなかで、電気の力を利用してイオンを捕まえる技術だ。
捕まえたイオンで量子ビットを作り、そこにレーザーを照射することで計算を行う。
このイオンは、数日間捕まえておくことができる。
イオントラップ方式は量子ビットの数は少ないものの、超伝導量子ビット方式とは異なり、量子ビットそのものを移動させられる利点がある。
また、イオントラップ技術は精密な時計、時間標準技術として古くから研究されてきた経緯があり、計算の精度の高さにも定評がある。
スタートアップが牽引している
原子やレーザーといったこれまでのコンピュータとはまったく異なる量子的なアプローチを採用しているため、新鋭のスタートアップが分野を牽引しているのも特徴的だ。
イオントラップ方式の量子コンピュータを開発しているアメリカのイオンキュー社(IonQ)は、2021年にニューヨーク証券取引所に上場した。
また、2024年にはアメリカ空軍と量子ネットワークを導入する5400万ドル(約80億円)の契約を結び、量子ネットワークを専門とするキュービテック社(Qubitekk)を買収した。
さらに、量子暗号の老舗企業であるスイスのアイディー・クアンティーク社(ID Quantique)も2025年に2億5000万ドルで買収すると発表し、順調に開発を進めている。
最近では、イギリスのイオントラップ型量子コンピュータのスタートアップ、オックスフォード・イオニクス社(Oxford Ionics)を約11億ドル(約1700億円)で買収することで合意したと発表している。
また、世界を代表する精密機器メーカーであるアメリカのハネウェル社(Honeywell)の量子ソリューション部門も、イオントラップ方式の量子コンピュータの開発に取り組んできた。
2021年、ソフトウエアを主に開発するイギリスのスタートアップのケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング社(Cambridge Quantum Computing)と合併し、クオンティニュアム社(Quantinuum)を設立した。
同社は、評価額100億ドル(約1.5兆円)を目指して上場を検討していると報道されている。
クオンティニュアム社は、イオントラップ方式では最大規模の五六量子ビットの量子コンピュータの開発に成功した。
日本では2025年2月、理研に同社の量子コンピュータ「黎明」が設置された。
イオントラップ方式の“弱点”
イオントラップ方式の弱点は、一箇所に捕獲できるイオンの数、つまり量子ビットの数には限界があることだ。
100量子ビットを超えた大規模な量子コンピュータを実現するには、量子ビットを拡張できる仕組みを何らかの方法で確保する必要がある。
いまは、別の場所で捕えたイオンを量子の性質を保ったまま移動させるシャトル方式や、光など別の手段を使って複数の装置をつなぐ分散型の方法などが検討されている。
イオンキュー社が量子ネットワークを強みとするキュービテック社を買収した理由もここにあるのかもしれない。
(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)





