量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回は量子コンピュータの方式の1つ「超伝導方式」について抜粋してお届けする。
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量子コンピュータ5大方式
量子コンピュータの実現方法としては、大きく分けて5つの方式がある。
超伝導量子ビット方式、イオントラップ方式、冷却中性原子方式、半導体量子ビット方式、光方式だ。
これらのうちどれが本命となるかはまだ決まっておらず、さまざまな方式で量子コンピュータを開発する企業が群雄割拠している状況だ。
ここではまず、超伝導量子ビット方式についてお話ししよう。
歴史が長く、企業の数も多い!
超伝導量子ビット方式は、グーグルとIBMが牽引し、日本からは富士通が参戦している方法だ。
低温に冷やすことで電気抵抗がなくなる「超伝導」という素材で作った電気回路を用いて量子ビットを構成する。
一番冷えている箇所は、なんと宇宙空間(約-270度)よりも冷たくなっている。
「電子回路が量子ビットになっている」という固体の部品としてはじめて実現した量子ビットでもある。
1999年に中村泰信と蔡兆申らが実現して以来、25年を超える研究の歴史があり、材料、チップ設計、そして制御装置開発など知見が蓄積されている。
現在取り組んでいる企業の数が最も多い方式でもある。
スタートアップも参戦
超伝導量子ビット方式のスタートアップではアメリカのリゲッティ・コンピューティング社(Rigetti Computing)が2022年、NASDAQに上場した。他にも、フィンランドのアイキューエム・クオンタム・コンピューターズ社(IQM)やイギリスのオックスフォード・クオンタム・サーキッツ社(OQC)など、超伝導量子ビット方式に参戦しているスタートアップは多くある。
OQC社は都内にあるエクイニクス社のデータセンターに、開発した量子コンピュータ「Toshiko」を設置している。
ちなみに、この量子コンピュータの名前は、海外(フランス)で活躍した日本人初の女性物理学者である湯浅年子にちなんでつけられている。
超伝導量子ビット方式では、制御装置メーカーの存在感も高まりつつある。
国産超伝導量子コンピュータでは、大阪大学発のスタートアップであるキュエル社が制御装置を供給している。
いちばん儲かるのは誰?
その他にも電子計測器の世界を代表するメーカーであるアメリカのキーサイト・テクノロジー社(Keysight Technologies)は量子ビットに発生するノイズの処理に強みのあるソフトウエアベンチャー、カナダのクオンタム・ベンチマーク社(Quantum Benchmark)を買収し、量子コンピュータ用の制御装置開発に力を入れている。
他にもオランダのキューブロックス社(Qblox)やイスラエルのクオンタム・マシーンズ社(Quantum Machines)、スイスのチューリッヒ・インスツルメンツ社(Zurich Instruments)など多くのスタートアップがひしめいている。
量子コンピュータそのものは、ほとんどが政府や国の研究所などの予算でしか購入されていない。
まだ、一般企業や個人が買うものではなく、量子コンピュータの販売ではなかなか売上が得にくい。
一方で、量子コンピュータを動かすために必要な制御装置を作っている会社は、量子コンピュータを開発している企業や研究者に製品を提供することで、しっかり売上を上げている。
かつてゴールドラッシュで一番もうけたのは、ジーパンやつるはしを売っていた商人たちだった。
量子コンピュータにおいても、量子コンピュータを作るために必要となる部品を供給する会社が最初に産業として立ち上がり、利益を得ると予想される。
(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)





