「うちの子は読書が好きなのに、国語のテストで思ったほど点数が取れない」。中学受験を目指す家庭で、保護者が抱きやすい悩みの一つだ。「読書=国語力」だと信じている親にとって、この現実は受け入れがたいものかもしれない。なぜ、読書好きの子どもが必ずしも国語が得意になるとは限らないのか。中学受験専門のプロ家庭教師で『中学受験必勝ノート術』の著者・安浪京子先生と、言語化の専門家で『こども言語化大全』の著者・山口拓朗先生の対談から、その残酷な理由と、国語力を確実に伸ばすための具体的な処方箋を解き明かす。(構成 森本裕美)
『こども言語化大全』の著者・山口拓朗氏(左)と『中学受験必勝ノート術』の著者・安浪京子氏(右)
「読書好き=国語が得意」ではない
山口拓朗(以下、山口):よく「本をたくさん読めば国語ができるようになる」と言われますよね。実際、本が好きな子は国語の成績も良いのでしょうか?
安浪京子(以下、安浪):実はそうとも言えません。「うちの子は本が好きだから、国語はできる」と思っているご家庭ほど、いざ塾のテストを受けてみると全く点数が取れなくて驚かれることが多いんですよ。
山口:文字に触れる機会が多い分、文章を読むのには慣れているはずですよね? なぜ点数に結びつかないのでしょうか。
安浪:理由は主に3つあると思っています。1つ目は、本好きの子どもの多くが、自分の好きなジャンルばかりを読む傾向があるということです。ファンタジー小説や特定の物語ばかりを読んでいて、論説文や説明文、古い時代を背景にした随筆などには全く触れていない子が多いんです。
山口:自分が面白いと思う世界にしか浸っていないわけですね。
安浪:はい。中学受験では色々な文章が出ますから、読み慣れない文章が出ると点をとれないことがよくあります。
山口:なるほど。2つ目の理由は何ですか?
安浪:それは、「世の中にはもっとすごい本好きがいる」ということです。「うちの子は、けっこう本が好き」というレベルでは全く話になりません。国語の勉強をしなくても点が取れるレベルの子って、めちゃくちゃ読んでないと無理ですよ。
山口:めちゃくちゃ読むレベル、ですか。
安浪:例えば、女子の最難関である桜蔭の国語は日本一難しいんですけど、合否を分けるのは算数だと言われています。
山口:国語が難しいのに、算数勝負になるんですか?
安浪:そうです。桜蔭を目指す子は、いわゆる本の虫で、めちゃくちゃ読むレベルの子たちです。だから、国語はできて当たり前。なので、算数が合否を分けるんです。
山口:すごい世界ですね。本好きと言っても、圧倒的な量を読んでいないと、自然と国語力が伸びるレベルにはいかないんですね。
テストで「この文章面白い」と思ったらアウト
安浪:3つ目の理由は、実はこれは中学受験の闇と言えるんですけど。テストを受けている時に、「この文章面白い」と思ったらアウトなんですよ。
山口:えっ、面白いと思ってはいけない?
安浪:中学受験の国語は、いかに早く、点数をとるために読解技術を駆使して解答していくかが勝負なんです。だからじっくり味わっちゃ駄目なんですよね。
山口:そこに感情移入したりとかは…
安浪:アウトです。自分の感情を挟んでいたら点は取れません。ただ、それを小学生に求めるべきかと言うと、そうではないと思うんですよ。本来、小学生には文章を味わってほしいと思っています。でも、点数を取るためには、そうもいっていられない。そこが本当にジレンマですね。
山口:そうなんですね。
安浪:ただ、中学受験の国語を通してのメリットもあって、それは幅広く、深く色々な文章に触れられることですね。
山口:たしかに。しかも、厳選されたいい文章を読んでいるわけですから、それは将来、アドバンテージになりそうですね。あと、先ほど、中学受験生が国語のテストで点をとるためには、読解技術が必要というお話がありましたが、それは具体的にどのようなものなんでしょう?
安浪:例えば、文章に書かれている内容が難しくて意味がよく分かっていなくても、接続詞などを見て「ここは抽象的なまとめで、具体的な内容はこっち」と構造を見分けたりするテクニックのことです。こうした技術を駆使すれば、内容を完全に理解していなくても正解を導き出すことができます。読書のように「読んで感じる」のではなく、「構造を分析して解く」ための技術を身につけないと、国語の成績は伸びません。
山口:まさに「技術」という感じですね。だけど、桜蔭レベルではないにしても、せっかく本が好きで、ふだんから楽しく読んでいるのに、それが国語の成績に結びつかないというのはちょっと悲しいですね。
安浪:そこは丁寧に説明したいのですが、成績にすぐ直結しなくても、ベースの部分はもちろん大きく違ってきます。国語の偏差値が同じ子でも、読書する子としない子は全然違います。例えば語彙の場合、本の中で様々な言葉に触れてきた子と、テキストに載っている言葉を覚えた子では馴染みが違う。語彙力がないと文章を読んでも何を言っているか理解できませんし。すべての科目の土台は国語ですから。
山口:算数などの理系科目にも影響するのでしょうか。
安浪:もちろんです。算数だって、「てにをは」が分からなければ「6を3で割る」ことと「6で3を割る」ことの違いが分からず、式が作れませんからね。



