石井 たしかに、一度経験しているというのは大事ですね。
AIを使った場合も、その業務を経験したことのある人であれば、AIが出した答えが合っているかどうかはすぐわかります。たとえば僕らは、AIがアイデアや創造性のことに関して違うことを言ってきてもすぐにわかる。
ただ、そうじゃない人は言われたことが合ってるかどうか全然わかんないんですよね。その人が持っている能力範囲の「外」のことって、途端にAI回答の検証に時間がかかります。加藤さんであれば、広告戦略に関するAI回答を見て「間違ってるじゃん」とすぐにわかるけど、僕だったら簡単に「そうか」って思っちゃうわけで。
能力を広げていないと、AIを使う時の「もたつき」がひどいと思うんですよ。その意味では、まずはAIなしで自力で一回それをできるくらいの知見を積んどかないといけない。一通り人力でやったうえで、2回目からはAIで消化するようにさせるのがいいかなって気がしますね。
加藤 人を育てるという観点でいえば、そういう遠回りも大いにありですよね。
石井 結局のところAIって、自分ができることが爆速にできるようになる道具だなと思うんです。自分ができなかったことをやる道具としては、まだ危ういなって思います。
だからAIを最大限に使うには、まず自分の手のひらを大きくしないといけないと思います。新人は手の平がまだ小ちゃいですから、まずはこれを広げる。
上司は新人に「人力」を押し付けすぎないで
加藤 じゃあ、その訓練回数というか、そこをどうマネジメントするかが上司の仕事ですよね。どの程度人力でやったらAIを使っていいと言ってあげるのか。
1回だけでいいのか、それが2回なのか3回なのか5回なのかは人や案件によると思うんですけど、その指針が欲しいんですよね。
石井 それで言うと、意外と早く人力の期間は終えていいのかもしれないと思います。
僕が商社で汗かきながら新人をしていた時代は、たとえばFAXを送るにも表書きが必要でした。「株式会社ダイヤモンド社のなんたら課長、お世話になっております。なになにしていただきたく」みたいな。
他の部署の人はみんなパソコンで作ってたんですけど、僕の上司はこの表書きを「絶対に手書きで書け」というんですね。そのおかげか、確かに何十年経っても内容を覚えているわけです。
ただ、今の僕があの頃の自分だったら、上司に「3回やったのでもういいです。これから先はAIに書かせます」と言いたいなと思うんです。ということで、新人側の立場になったら、「人力でやらなきゃいけないのはわかるけど、過剰に長く、その期間を押し付けないでくれ」とは思いますね。
学校の技術の授業で、ノコギリを引く技能がありますよね。でも、ノコギリに習熟する前に、2回目からは電ノコになるわけですよ。1回はアナログの道具を使うけど、それ以降はもうオートマチックでいい。僕らはそうやってきた。
だから仕事においても、1回なのか1ターンなのかはわかりませんが、なんらかの塊を1回やったら、あとはAIでもいいのかなと思うんですよね。
加藤 少なくとも一度は経験して、判断軸というか、要点や注意点がわかったうえで使おうよっていうことですかね。
(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』著者の石井力重さんと、監修者の加藤昌治さんによる対談をもとに作成したオリジナル記事です。)
アイデアプラント代表。早稲田大学 非常勤講師(デザイン論)。日本創造学会 元理事およびデジタル推進委員会 委員長
東北大学大学院修了後(理学修士)、ハイテク専門商社に5年勤務。同大2つの大学院(工学、経済学)博士後期課程にて創造工学を研究後に退学。新エネルギー・産業技術総合開発機構のNEDOフェローとして大学発ベンチャーに3年駐在。2009年にアイデアプラント設立。創造工学の研究、ブレインストーミング・ツールの開発、アイデアソンのデザインとファシリテーション、創造研修などをしている。研修を実施した企業、教育機関はこれまでに600以上で、のべ2万人以上が参加。実施企業は、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなど。
1994年広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』『チームで考える「アイデア会議」 考具 応用編』『アイデアはどこからやってくるのか 考具 基礎編』(すべてCEメディアハウス)、『仕事人生あんちょこ辞典』(角田陽一郎氏との共著、KKベストセラーズ)など、ナビゲーターを務めた書籍に『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社)がある。








