イラストレーション:木内達朗
「週刊ダイヤモンド」の大人気連載「ブティック」が単行本となり、5月13日に発売されます。「半沢直樹」シリーズや「下町ロケット」シリーズなどを手掛けた池井戸潤の2年ぶりの新作となります。ダイヤモンド・オンラインでは発売に先行し、期間限定で全話(全62回)を順次配信していきます。小説『ブティック』の第1話の#2を公開します。
【公開スケジュール】
・第1話:星を探して(#1~#8)#1、#2は完全無料公開 4/4~5/1配信
・第2話:トゥームストーン(#9~#15) 4/4~5/1配信
・第3話:夏空(#16~#24) 4/11~4/17配信
・第4話:最善のアドバイス(#25~#33)4/11~4/17配信
・第5話:スイミー・キッチン(#34~#38) 4/18~4/24配信
・第6話:秋空(#39~#42) 4/18~4/24配信
・第7話:ブルータスの選択(#43~#50) 4/25~5/1配信
・最終話:ローズガーデン(#51~#62) 4/25~5/1配信
池井戸潤『ブティック』
第1話:星を探して(2)
プロローグ(承前)
世の中の会社の力になりたい。困っている会社を救いたい――。
それこそ秋都が銀行を目指した理由だったはずだ。町村のようなちっぽけなカフェであろうと同じである。
なのに、それを救うどころか、みすみす見捨てようとしている。
「力になれず、悔しいです」
秋都は心のうちを正直に吐露した。
町村が返したのは、寂しげな笑みである。
「雨宮くんが一所懸命に戦ってくれたことはわかってる。戸倉課長もね。おふたりのせいじゃない。こうなったのは経営者であるぼくのせいさ。これは、ぼくの責任でなんとかしなきゃいけない問題だったんだ」
「あの――町村さん」
秋都は遠慮がちに問うた。「どこかほかに、借りる宛てはあるんでしょうか」
「宛ては――ないね」
憑きものが落ちたように、町村はさっぱりとした顔をしていた。「だけど、なんとかするしかないでしょう」
頼みの融資を断られたとき、経営者は往々にして態度を豹変させるものだ。取引先課にきて二年という短い間でも、幾度か秋都もそういう場面に遭遇したことがある。
だが、町村はあくまで温厚な態度を貫いている。そのことに、秋都はひそかな尊敬の念を抱いた。
「ご期待に添えず、申し訳ありませんでした」
戸倉が深々と頭を下げ、ふたりは腰を上げた。
「あ、そうだ、雨宮くん」
イラストレーション:木内達朗
ふと思い出したように町村が呼び止めたのは、そのときだ。
「なんでジャコウネコのコーヒーなんてものが生まれたか、知ってるかい」
それがあまりにも場違いな問いに思え、秋都はぽかんとした。戸倉も、質問の意図を汲みかねたか、町村の顔を見つめている。
いいえ、と首を横に振った秋都に答えをいうのかと思いきや、
「それはまた今度、話すよ」
町村はそういって笑顔を作ってみせた。悲しみや苦しみの中で浮かべる笑みほど、胸に突き刺さるものはないのだと、そのとき秋都は悟った。
1
その日の夜――。
「まあ、今日みたいなこともあるさ」
短いため息を吐いた戸倉が自分に言い聞かせるかのように呟いた。支店から歩いて五分足らずのところにある、チェーン店の焼き鳥屋のカウンターである。戸倉が、部下を呑みに行かないかと誘うことは滅多にないが、それだけこの日のことが気になったのかも知れない。
「悔しいです」
相手が日頃から、部下の面倒見のいい戸倉ということもあって、秋都も直截に心情を口にした。店には離れたテーブルにひと組の客がいるだけで、聞かれる心配はない。
「支店長の経営再建計画が採用されなかったからって、融資見送りはないと思うんですよ。ジャコウネコにだって、人生はあるんだし」
ジャコウネコというのは、コピ・ルアクを指し示す支店内の隠語のようなものだ。戸倉はしばし黙って何事か考えたようだが、
「君の気持ちはわかるが、ここは堪えておけ」
言い含めるようにいった。「次のこともあるからな。――そろそろだぞ」
人事のことである。
『ブティック』(ダイヤモンド社) 定価:本体2000円+税
ブティック
池井戸潤著
〈内容紹介〉
「君、銀行辞めて、どうするの?」
入行3年目、エリート街道を歩んでいた雨宮秋都は、ある案件をきっかけに、理不尽な戦力外通告を受けてしまう。退職を決意した秋都が見つけた、新たな希望とは――?











