つまり京都人は本音を隠しているのではなく、「言う場所」と「言う順番」をはかっているわけですが、この構造を知らない人にとっては「京都人の攻略は難易度が高い」と感じてしまうのです。

 そして京都は現代における「日本らしさの縮図」です。

 この「オモテのたてまえ」「ウラの本音」というスタイルは、多文化・多様性が強まる時代において、あちこちに散見されます。

 そのことから、SNSはもちろんのこと、日常のさまざまな場面において、京都人でなくとも「たてまえ」を使って関係を壊さずに物事を動かす様子をよく見聞きします。

「支配」ではなく「流れ」をつくる

 京都人相手でも、その他の共同体であっても、「場」という背景を踏まえた場合、正面から力ずくで全体を動かそうとしてはいけません。

 その代わり、まず影響力のある人に先に話を通し、そこから少しずつ周囲に賛同や共感を広げていく。そんなやり方を選ぶ必要があります。

 これを私は「戦略的根回し」と呼んでいます。

 たとえば私が、京都で旅館業や住宅宿泊事業(民泊)の支援をしているときも、クライアントにいきなり大勢を相手に説明しないよう助言してきました。

 手順としては、まずその地域で信頼されている人に話をしていくことです。

 それは町内会長であったり、長く経営されている店主であったり、民生委員や地方議員など、その地域で影響力がある人になります。

 まずは、その方々と「感情的対立」や「認知的対立」を解消しておく必要があり、そうなれば「この人は大丈夫」と周囲に共有してもらえるので、スムーズに「賛同の空気」ができていくのです。

 もし最初から全員に理屈を説こうとしても、反発が大きくなることのほうが多いのです。

 このような「戦略的根回し」による「場の合意形成」の手順は、相手を力で動かすのではなく、「流れを生み出す」ことに重点を置いています。

 つまり、支配ではなく流れをつくる。人を無理に説き伏せるのではなく、賛同が自然に広がる環境を築いていくことを目指します。

 この考え方は、現代のビジネスやSNSにもそのまま当てはまります。

 たとえば会議であれば、事前調整なしにいきなり全員にプレゼンするよりも、事前に影響力のある人に話を通しておくほうが決議はスムーズに進みます。

 SNSであれば、いきなりコミュニティ全体の空気を変えられるとは思わずに、まず意見がぶつかっている相手の主張を受け入れて、ダイレクト・メッセージなどその相手がフォロワーなどの圧力を受けないやりとりで調整をはかったり、他の影響力ある人たちにも同様の調整をはかるべきです。

「支配する」のではなく「流れを作る」。

 それが京都に根づいた合意形成の技術であり、現代の多文化・多様性が交錯する社会において、誰もが身につけておくべき調和を生み出す力といえます。