相鉄グループ、パナソニック、中川政七商店、黒木本店、尾鈴山蒸留所、久原本家 茅乃舎、そしてくまモン……
様々なブランドを大ヒットに導いてきたクリエイティブディレクター・水野学氏。
さぞや忙しいのでは、と思われがちだが、実は毎日8時間睡眠のゆったりした生活を送っているという。
それは独自の時間の使い方があるからだ。
いったいどうしたら、多くの仕事を抱えながら、焦らず、慌てず、余裕のある生活ができるのか?
水野学氏の著書『逆算時間術』(ダイヤモンド社)から探ってみたい。

ビジネス書を100冊読んでも、なぜか相手の心がつかめない。そんなあなたに勧めるたったひとつの習慣とは?Photo: Adobe Stock

小説は想像力を高める訓練になる

 情報や知識を得る、となると、どうしてもダイレクトに役に立ちそうなものに目がいってしまいがちです。ただ、直接役に立ちそうなものだけが役に立つわけではない、ということは間違いなく言えると思っています。その一つに、小説があります。

 あるとき、スタッフの書いた企画書を見ていて、ちょっと気になったことがありました。文章力はある。でも、どうも本質をつかめていない印象がある。もっと言うと、相手の心をつかむような文章になっていない。

 これは会話も同じでした。相手の心をつかめるような順番で話をすることが得意ではない。本人もそれを自覚していて、話し方教室に通ったりして、努力をしていました。でも、どうもうまくいかない。

 どうしてだろうと考えたとき、ふと思ったのです。この人は、小説を読んでこなかったのではないか、と。聞いてみると、確かにビジネス書を読むのは好きだが、小説はほとんど読んでこなかった、とのことでした。

 小説には、余白を汲み取る力が求められます。映像は情報量が多いし、ビジネス書は言いたいことを明確に書いてくれる。しかし小説は、すべてを説明してはくれない。必ず余白があります。例えば、暑い、と書かれていたとすると、それがどのくらい暑いのかはこちらが想像するしかありません。3人いれば三者三様の「暑い」を思い浮かべながら読んでいるはずです。だから、想像力の訓練になっていくのでしょう。

 さらに、この先はどうなるんだろうかと想像したり、この場面はどんな顔をしているのかをイメージしたり。人の感情を想像し、追いかける力が磨かれます。

 加えて、小説には心理描写があります。この人はなぜ怒ったのか、なぜ黙ったのか、笑顔の奥で何を感じていたのか。それを読み重ねていくうちに、人がどういうときに心を動かされ、何に傷つき、どんな順番で言われると受け入れられるのか、といった感情の機微が、自然と蓄積されていくのかもしれません。

 そもそも人は、物語にしたほうが覚えやすいし、記憶に残りやすいのだと思っています。例えば、桃太郎の話がストーリーになっていなかったとしたら、ここまで伝承されたでしょうか。

 おじいさんは山へ柴刈りに行って、おばあさんは川へ洗濯に行って、すると上流から桃が流れてきて、桃から生まれた桃太郎は鬼退治に行く、という大きなストーリーがあるからこそ、記憶に残っている。

 小説は、ストーリーで展開されていきます。しかも、心を惹きつけられるように書かれている。それは企画書でも、プレゼンでも、間違いなくヒントになると思います。

※本稿は、『逆算時間術』水野学(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して掲載したものです。