相鉄グループ、パナソニック、中川政七商店、黒木本店、尾鈴山蒸留所、久原本家 茅乃舎、そしてくまモン……
様々なブランドを大ヒットに導いてきたクリエイティブディレクター・水野学氏。
さぞや忙しいのでは、と思われがちだが、実は毎日8時間睡眠のゆったりした生活を送っているという。
それは独自の時間の使い方があるからだ。
いったいどうしたら、多くの仕事を抱えながら、焦らず、慌てず、余裕のある生活ができるのか?
水野学氏の著書『逆算時間術』(ダイヤモンド社)から探ってみたい。

ベテラン社員の反対を、納得感100%で突破する「黒船理論」とは?Photo: Adobe Stock

否定しない。「黒船理論」をうまく使う

 クライアントと年間契約でブランディングを推し進めようとするとき、気をつけていることがあります。それは、過去にクライアントがやってきたことを、安易に否定しない、ということです。

 もちろん、過去にやってきたことに何か問題があったのかもしれない。現状にも、まだ課題があるのかもしれない。しかし、それをやろう、というところに行き着いたということは、それなりの理由があったはずなのです。

 理由もないのに何かの取り組みを進める会社はありません。そして、それに対して愛情を持っている人も、間違いなくいるのです。

 もしかすると今だけダメになっているのかもしれない。先月までは大丈夫だったのかもしれない。1年前までは、イケてたかもしれない。5年前は大ヒットを生み出していたかもしれない。

 今この環境になって、そぐわない状況になっているだけで、良かれと思ってやってきたことには、必ず理由がある。だから、むやみに否定はしません。

 まずはこれまでの経緯を詳しく聞くことから始めます。なぜそうしてきたのか、どんな思いがあったのか。その上で、意見を言ったり、アイデアを出したりしていく。

 そのとき、みなさんの様子をよく見るようにしています。提案に対して、どんなリアクションがあるのか。ある人は身を乗り出しているけれど、ある人は動かないかもしれない。ある人は笑顔を浮かべ、ある人は困った顔をしているかもしれない。

 誰の立場もなくさないよう、言葉には十分に気をつけるようにしています。

 ただし、全員の顔色ばかりをうかがっていては、なかなか前には進みません。そこで常に見つけようとしているのが「黒船」です。僕は「黒船理論」と呼んでいますが、幕末に黒船がやってきて諸藩が一致団結したように、「これにはみんな抗えない」という一点が見つかると、議論は一気に動き出します。

 多くの場合、「黒船」になるのは時代の変化です。例えば、あるクライアントでは、電話での丁寧なお客様対応を大切にしてきた歴史がありました。それ自体はすばらしいことです。でも、最近の若い世代は、その距離の近さにかえって抵抗を感じる人も増えている。ならば、チャットやLINEでのお問い合わせ機能を充実させましょう、と提案する。社内にさまざまな意見があっても、「時代の流れが変わっている」という事実は否定できない。これが「黒船」です。

 木村屋總本店の場合は、ちょっと変わった「黒船」でした。みなさん、あんぱんに強い思い入れがある。だから、袋にどうやってあんぱんを入れるのか、という話がなかなか着地しなかった。それぞれのお店に思いがあったり、歴史があったりもする。そこで僕の中に浮かんだ「黒船」はこれでした。

「あんぱんの気持ちになって考えてみましょう」

 一気に場が和みました。人の立場からだとそれぞれの主張がありますが、あんぱんの気持ちは誰も否定できない(笑)。こういう「黒船」が見つかると、打ち合わせは一気に前に進むのです。

※本稿は、『逆算時間術』水野学(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して掲載したものです。