相鉄グループ、パナソニック、中川政七商店、黒木本店、尾鈴山蒸留所、久原本家 茅乃舎、そしてくまモン……
様々なブランドを大ヒットに導いてきたクリエイティブディレクター・水野学氏。
さぞや忙しいのでは、と思われがちだが、実は毎日8時間睡眠のゆったりした生活を送っているという。
それは独自の時間の使い方があるからだ。
いったいどうしたら、多くの仕事を抱えながら、焦らず、慌てず、余裕のある生活ができるのか?
水野学氏の著書『逆算時間術』(ダイヤモンド社)から探ってみたい。

生成AIによって数日かかった作業が数秒で終わる時代。ツールが進化すればするほど、「人間が汗をかいて蓄積すべきもの」ベスト1Photo: Adobe Stock

生成AIは問いの立て方次第

 インプットでもアウトプットでも、今や時間効率を大きく変えてくれるツールが次々に登場しています。その象徴的なものが生成AIでしょう。

 3Dデータのレンダリングは、以前なら数日かかっていたものが数秒で上がってくる。コードを書くスピードも驚異的で、そもそもプログラミングの知識ゼロでも欲しいツールを簡単につくれてしまう。リサーチもあっという間です。AIの登場は、仕事の進め方を根本から変えました。

 ただし、生成AIが真の力を発揮するかどうかは、何を聞くか――つまり、問いの立て方次第だと感じています。

 同じ課題でも、「売上を上げるにはどうしたらいいか」と聞くのと、「このブランドの強みを活かして、既存の顧客との関係を深めるにはどうしたらいいか」と聞くのとでは、返ってくる答えがまったく違います。前者には一般論が返ってくる。後者には、そのブランドに即した具体的な提案が返ってくる。つまり、問いの中にどれだけの解像度を込められるかで、AIの答えの質が決まるのです。そして、その解像度は、日頃どれだけ観察してきたか、どれだけ考えてきたかに左右される。

 これは、もっと大きなスケールでも同じです。

 例えば、あるエリアの再開発を任されたとする。どういう施設をつくって、どんなタイプのレストランやショップを入れ、上階にはどんなホテルを誘致するか。AIに「このエリアに最適な商業施設の構成を教えて」と聞けば、データに基づいた提案は出てくるでしょう。

 でも、そこに住む人たちの空気、街を歩いたときの肌感覚、周辺の店を観察して感じたこと――そういうものがなければ、本当にその街に合った問いは立てられない。観察から得たものがあって初めて、AIへの問いの精度が上がるのです。

 画像の生成でも同じことが言えます。例えば、「夕陽を眺めながら枝豆を食べ、ビールを飲んでいる写真」をつくってほしいと指示すれば、それらしい画像はすぐに出てくる。生成AIの精度は本当に上がっています。

 でも、その画像で何を伝えたいのか。ビールのシズルを見せたいなら、光はパキッと鮮やかなほうがいい。夏の季節感を演出したいなら、また違うトーンになる。同じ「夕陽と枝豆とビール」でも、目的が違えば、写真の空気はまったく変わってくるのです。

 さらに言えば、グラスなのかジョッキなのか、枝豆は皿に盛られているのか、籠(かご)に入っているのか。写真というのは、とんでもない量の情報を持っています。1枚の中に、本当に多くの情報が詰まっている。

 小説の文章には余白があります。「暑い」と書かれていても、どのくらい暑いのかは読者が想像する。その余白こそが、小説の力でした。写真はまさにその逆です。すべてが写り込んでいて、想像の余地が少ない。だから、本当に欲しい1枚を言葉で伝えようとすると、膨大な記述が必要になる。写真1枚を文章に起こすだけで、1冊の本になってしまうかもしれない。それくらい、言葉と写真の行き来は難しいのです。

 何を伝えたいのか、指示が曖昧なままだと、見た目はきれいだけど、なんか違う――という1枚が量産されてしまう。結局、「自分は何が欲しいのか」を言葉にできるかどうか。ここでもやっぱり、問いの立て方が効いてくるのです。

 どれだけツールが進化しても、何を問うかを決めるのは人間です。そして、いい問いを立てるためには、観察し、考え、自分の中に蓄積してきたものが必要になるのです。

※本稿は、『逆算時間術』水野学(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して掲載したものです。