相鉄グループ、パナソニック、中川政七商店、黒木本店、尾鈴山蒸留所、久原本家 茅乃舎、そしてくまモン……
様々なブランドを大ヒットに導いてきたクリエイティブディレクター・水野学氏。
さぞや忙しいのでは、と思われがちだが、実は毎日8時間睡眠のゆったりした生活を送っているという。
それは独自の時間の使い方があるからだ。
いったいどうしたら、多くの仕事を抱えながら、焦らず、慌てず、余裕のある生活ができるのか?
水野学氏の著書『逆算時間術』(ダイヤモンド社)から探ってみたい。
Photo: Adobe Stock
案件を掘り下げて、キーワードを抽出する
インプットがどんなふうに仕事のスピードをアップしてくれるか。多くのケースで、キーワードと言うべきものが出てきやすくなるのだと思っています。ものごとを言語化する力、お互いがイメージ共有できるようなキーワードを生み出す力が高まるのです。
例えば、2025年から始まった仕事に、木村屋總本店のプロジェクトがあります。あんぱんで有名な会社ですが、ありがたいことにご相談をいただいたのでした。
いろいろなお話をうかがっていて、僕の中に真っ先に浮かんだのは、あんぱん=「あたたかい」というキーワードでした。温度の話ではなく、あんぱんというのは、パンの中でも最も「あたたかみを感じさせるもの」だと思ったのです。どこか懐かしくて、ぬくもりや優しさを感じる。それこそ、朝ドラになってしまうくらい「あたたかい」。
となると、これを無機質な白い棚に並べて売る、というのはやはり違います。木製の「あたたかい」雰囲気のあるケースに入れてあげたいと思いました。もっというと、お店も木でできていると、より「あたたかい」と感じられます。
ただ、単なるウッド調だと洋風なので、和風の木の質感を大切にする。なぜかというと、あんぱんのあたたかさには、昭和初期や大正、明治の雰囲気が合うと思ったのです。
そうすると、そこにいる人の服装は、スタイリッシュな洋服ではない方がいいはずです。さらに、木村屋總本店の創業は明治2年なのですが、当時は活字なんてまだ普及していない。だから、ロゴは書き文字がいい。
実はあんぱんは、明治7年に木村屋總本店が生み出した酒種あんぱんが発祥です。ところが、僕の中であんぱんと聞いて浮かんだのは、昭和初期の風景でした。もちろん、これは昭和初期がどんな時代だったかというイメージが蓄積されていたからこそ、浮かんだのだと思います。
こんなふうに解像度をどんどん高めていったわけですが、やはりベースになったのは、「あんぱんって、なんだかあたたかい感じがする」というキーワードでした。これを打ち出せたからこそ、解像度を上げていくことができたのです。
例えば、ジャムパンにも懐かしさはあります。給食を思い出す人も多いでしょう。カレーパンだって、好きな人はたくさんいる。でも、「あたたかい」か? と聞かれると、ちょっと違う。懐かしい、好き、という感情と、「あたたかい」は別のものなのです。あんぱんだけが持っている、「あたたかさ」があります。
実際にお店を見にいくと、すでに木箱が使われていました。ただ、店舗や商品によって、見え方にばらつきはありました。
現在はあんぱんの「あたたかさ」をキーワードとして意識しながら、明治から続く歴史や伝統のバランスを大切に、ブランディングを調整しているところです。
イメージを言語化してキーワードを見つける。たくさんのインプットはここでも活きてきます。これだ、というキーワードが出てくると、関わる全員の解像度が一気に上がる。そして、打ち合わせもクリエイティブも、一気に加速していくのです。
※本稿は、『逆算時間術』水野学(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して掲載したものです。







