相鉄グループ、パナソニック、中川政七商店、黒木本店、尾鈴山蒸留所、久原本家 茅乃舎、そしてくまモン……
様々なブランドを大ヒットに導いてきたクリエイティブディレクター・水野学氏。
さぞや忙しいのでは、と思われがちだが、実は毎日8時間睡眠のゆったりした生活を送っているという。
それは独自の時間の使い方があるからだ。
いったいどうしたら、多くの仕事を抱えながら、焦らず、慌てず、余裕のある生活ができるのか?
水野学氏の著書『逆算時間術』(ダイヤモンド社)から探ってみたい。
Photo: Adobe Stock
「判断の軸」はAIにはつくれない
AIに「あんぱんから連想される感情は?」と聞けば、「和洋折衷」「懐かしさ」「安心感」といった言葉に加え、「あたたかさ」という言葉も出てくるかもしれません。
でも、AIにできるのはここまでです。「あたたかさ」というキーワードは出せても、それが木村屋總本店というブランドにとって、今、どういう意味を持つのか。何を選び、何を捨てるべきなのか。その「最終決定」は、AIにできません。
木村屋總本店は、明治2年の創業以来、150年以上にわたって日本のパン文化を牽引してきた存在です。明治7年に酒種あんぱんを考案し、翌年には明治天皇に献上。「文明開化の七つ道具」に数えられるほどの存在になったあんぱんだけでなく、ジャムパンもまた、木村屋が日本で初めて生み出したものです。日本人がパンを食べる文化は、この会社から始まったと言っても過言ではないでしょう。
銀座四丁目のお店は、週末ともなれば海外からの方も含めいつも大盛況。酒種あんぱんは本当においしいし、小ぶりのサイズ感が絶妙で、自分用だけでなくおもたせに買っていく方もとても多い。つまり、ギフト需要も大きい。
それを踏まえてブランドのデザインを考える場合、方向性としてはいろいろあり得るでしょう。ギフトだからおしゃれに見せるのはどうか、親しみのあるかわいらしいデザインはどうか、アルファベットを多用してスタイリッシュに仕上げるのはどうか――。
でも、それらはあんぱんの本質ではないと思いました。ましてや、明治の時代から日本のパンの歴史そのものをつくってきた木村屋總本店がやるべきことは、そこではない。
AIが、「あたたかさ」というワードを出せたとしても、150年の歴史を持つ木村屋總本店のデザインには伝統と本物感も大切だ、という「決定」はできません。判断の軸を決めるのは、人間です。
以降も判断の連続です。どんなたたずまいにするか。キーカラーは何にするか。店舗ごとに歴史や成り立ちが違う中で、どこは統一し、どこは違いをそのまま活かすか。
これを、毎回の打ち合わせで、クライアントのみなさんと一緒に議論していきます。ここがしっくりこない、となればその場ですぐに別案も検証する。一緒に頭を使い、試行錯誤しながら、みんながちゃんと腹落ちし、かつブランドとして的確な方向へと着地させていく。この過程は、AIには任せられません。「判断」は、やはり人間にしかできないことだと思うのです。
AIによって、リサーチや素材づくり、アイデアの叩き台をつくるスピードは圧倒的に上がりました。実際、プロデューサーである妻はかなり活用しています。画像や映像生成、コード、アイデアの壁打ち、資料作成から子育て相談まで(笑)。僕が「背景が黒でパキッとした照明で……」と言葉で伝えると、ぱっと映像を生成して「こういう方向?」と見せてくれたりもする。言葉だけでは埋まらなかったギャップを、AIが橋渡ししてくれています。
こうして短縮できた時間を、先ほどのような「考える」「判断する」「試行錯誤する」ことに充てる。これが、AIの時代の時間の使い方だと思っています。
ただし、気をつけなければならないこともあります。AIが相手だと、いくらでもやり直しがきく。だからこそ、自分の中に軸がないと、際限なく迷走してしまう。「なんか違う」を繰り返しているうちに、時間を浪費してしまうということが起きかねません。
だからこそ、日頃のインプットや観察で自分の中に判断の軸を蓄えておくことが大事になる。AIを味方につけて時間を生み出し、その時間を、人間にしかできない仕事に使う。それが、これからの時間術なのだと思っています。
※本稿は、『逆算時間術』水野学(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して掲載したものです。







