「音楽で世界の架け橋」には
限界があることを、ヨルダンで知る
編集部 ツアーのことをもう少し詳しく聞かせてください。ハーバード大生がイスラエル・ヨルダンに演奏ツアー、どういう意図で行われたのでしょうか?
廣津留 政治的対立の激しい地域での公演を成功させ、シリア難民に全収益を寄付する等の社会的貢献をするのはもちろんのこと、現地の学校の人とディスカッションをしたり実際に足を踏み入れ空気を感じたりすることで、この民族対立の実情をより深く理解する機会にしよう、という濃い内容でした。
学校はイスラエル1校とパレスチナ2校の、計3カ所訪れました。ハーバード生は、やたらとディスカッション好きなので、ガンガン質問が出ました。ドキュメンタリーや本を読み、イスラエルとパレスチナはこうだとか、表面的な知識はありましたが、対談を通して伝わってくるものが大きかったので、行って良かったです。
特にパレスチナ側の人は、涙交じりに声を荒げて訴えかけてくるような場面もあって、本当に、行かないとわからないものが大きいなと感じました。実際、私たちの演奏はパレスチナ自治区では実現しませんでした。
編集部 パレスチナ自治区では演奏がNGになってしまったのですか?
廣津留 壁の向こうのイスラエルのことをいろいろ見てきた人たちがパレスチナに突然来て、旧知の友達のように共に音楽を奏でることはまかりならぬ、みたいな感じだったんです。衝撃でした。
よく「音楽で平和の架け橋を」とか言いますよね。私自身、ボランティアとして現地に赴き、バイオリンを弾くことで平和に導くなどと言っていましたが、民族間の紛争や宗教的な問題は、歴史的背景も含めとても根深い問題で、音楽だけで変えていくっていうのは不可能じゃないかなと思ってしまう。それが衝撃的でした。音楽の力も限られてる、何か限界を見たような感じでしたね。
編集部 でもそれは、「音楽」という手段を持っていたからこそ、そしてそれを使って実行したからこそ、知り得たこととも言えますよね。
廣津留 そうですよね。確かに。ハーバード大生は、世界のリーダーになるんだという自負を持っている人が多い。でも真のリーダーには、大局からものを見る能力に加えて、現地の人の言葉にしっかり耳を傾けるだとか、地道な努力を怠らない姿勢が必要なのだと実感しました。