森七菜さん主演の映画『炎上』が、公開から連日満席で話題だ。歌舞伎町・トー横に集う若者を描いた本作で監督・脚本を務めるのは、サラリーマンでありながらサンダンス映画祭で日本人初のグランプリを受賞した長久允氏。その思考法を存分に伝える『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』から、抜粋・再構成し、作品づくりの根幹に迫る。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

脚本の教室Photo: Adobe Stock

行き詰まるのはなぜ?

 今までのやり方が、突然通用しなくなった。

 そんな岐路に立たされている人は多いかもしれません。

 これまで会社の言うとおりに働いてきたけれど、「自分の仕事」と言えるものがない。

 そんなモヤモヤを抱えている人もいるでしょう。

 なぜそんなことが起きるのか。

 それはあなたの心が動いていないからではないでしょうか。

「幸せな仕事だ」と自分で自分に言い聞かせて

 私にも心当たりがあります。

 新卒で広告会社に入り、CMを制作していたときのこと。

 心を消して死に物狂いで頑張っても、結果がついてこない日々を経て、30代になった私は、なんとなく「これでいい」と思い始めていました。

 作った広告映像で売れ行きが上がり、クライアントさんは喜んでくれる。

 だから、とても幸せな仕事だ。

 そう自分で自分に言い聞かせて、たくさん映像を納品しました。

自分の人生のクライアントは「自分」

 結局、体のほうが先に悲鳴を上げてしまいました。

 そうして私は、自分にはもっと表現したいものが別にあるはずだ、と思い出せたのです。

 私の脳みそはもっと自由に弾けているのに、私はそれを日常でまったく使っていませんでした。毎日クライアント様に頼まれた仕事で忙しく、to doリストで脳みそを埋めていました。

 そして気づきました。

 自分の人生のクライアントは、「自分」じゃんか、と。

 それはそれはシンプルな気づきでした。よく考えたら当たり前なのに、労働する私はそのことを忘れて生きていました。

 もし自分の体が丈夫だったら、今もまだそのまま無理して広告をやっていたと思います。誰かの「代理」をやり続けていたように思います。

「評価されるもの」の正体

 それから私は有給休暇を使って映画を撮りました。

 お金もコネもないので、DMして仲間を集めました。

 好きなルックのMVのカメラマンさんや照明さんを調べて連絡をとり、参加してもらいました。音楽もこの映画にぴったりのバンドにDMを送り、最高の曲を作ってもらいました。

 俳優も、普通は出てもらえないような方々ばかりでしたが、熱意を持って企画を説明し、出演していただけました。

 そして出来上がったのが、サンダンス映画祭でグランプリを受賞した『そうして私たちはプールに金魚を、』という作品です。

 私は思うのです。

 誰かの共感を狙うとか、誰かに評価されるとか、そんなことよりももっと違う場所に、本当に評価されるものはあると。

「あなたが本当にいいと思っているかどうか」それが、一番大切なことなのです。