“箱物行政”としないため
デジタル人材を育成
――なぜ香川県なのでしょうか。
香川県での誘致の重要ポイントは、県としての明確な意思です。多くの自治体でデジタルインフラへの取り組みに温度差がある中、香川県は「せとうち企業誘致100プラン」においてDCを重点誘致業種と位置づけ、大規模DCの立地支援制度を創設しました。
DCを「県内で整備すべき戦略的なデジタルインフラ」として明確に位置づけ、DX推進のためにこれを県内に置くのだという強い方向性を打ち出しました。
次に、国の支援制度の活用です。経済産業省の特定重要物資供給確保計画の認定を受け、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)から77億円の助成を獲得。さらに金融機関からの融資や出資も組み合わせ、言わば「合わせ技」で、多額の初期投資を賄うことができたのです。
こうしたファンディングスキーム、資金調達の仕組みを整えることで、初期投資のハードルが下がり、必ずしも大資本のない事業者であっても大規模なDC投資に踏み出せるのです。
香川県は、地理的・物理的にも恵まれています。地震が少なく、DCの立地条件として重要なレジリエンスの観点で優位性があります。空港の利便性も高く、東京・大阪のバックアップ拠点や大阪の代替地として選ばれやすい地理的な条件も整っています。
――地理的・物理的な条件に加え、戦略的な意思や制度整備が重なったことが勝因なのですね。稼働後もうまくいっているのでしょうか。
一般論として、地方自治体が補助金を使って施設を建てたはいいが、使う人がおらずガラガラという、かつての“箱物行政”の失敗と同じ構図がDCでも起きかねないという懸念はあります。DCの稼働率を上げるためには、地方のDCに計算需要を呼び込むためのワークロードシフトの枠組みや、電力料金の優遇などの制度設計が求められるでしょう。
――技術面での問題はありませんか。
GPUの世代交代は早く、GPUに投資する事業者は短期で投資を回収しなければなりません。長期的な地域活性化という時間軸に基づいて投資判断するのはなかなか難しいでしょう。技術的に実現可能であることと、それをやりたいと思える経済合理性があるということは別の話で、インセンティブがなければ誰も動かないという現実を直視する必要があります。
――それらを踏まえて、ワット・ビット連携3.0の実現に必要なことは何ですか。
まずは都道府県などが主導して、ワット・ビット・シティのモデルを作ることです。香川県のように、DCを地域の将来ビジョンの中に明確に位置づけ、制度的な支援と利活用側の連携を一体で推進するという意思を持つ自治体が増えることが必要です。再エネなど脱炭素エネルギーが豊富であるか、あるいはデジタル化の需要が大きい産業基盤と人口を持つ地域中核都市が有力な候補となるでしょう。
外部便益を見える化し、共有することも必須です。DCが地域にもたらす便益には、DCの設置・運用による直接的な便益(内部便益)と、DCを核とした地域のスマート化や域外からの人材流入などの外部便益があります。
DCを地方に置くことで、国全体で見れば再エネの無駄がなくなる、送電網投資を節約できるといった大きな便益を生み出します。
しかし、DC事業者はその恩恵を直接受けられません。社会的な便益を定量的に可視化し、生み出した便益の大きさに応じて、たとえば地方で計算処理を行った事業者に対して電力料金を優遇したり、ワークロードシフトに協力したことへの報酬を与えたりするなど、便益をステークホルダー間で分配する市場設計やインセンティブの付与が必要です。
内部便益だけを見ていると、DCを置いても地域には大して恩恵がないという結論になって、住民の理解も得にくくなります。外部便益を顕在化させ、地域に還流させる仕組みがあるかどうかで、DCの地域にとっての意味合いは大きく変わるのです。
香川県の例で見たように、事業環境の整備は不可欠です。DC建設には大規模な先行投資が必要なので、地域金融機関などを巻き込んだ協調融資やファンド組成など、官民を挙げた多様なスキームで資金調達のハードルを下げ、リスクを分散・低減することが有効でしょう。
加えて、作って終わりではなく、運用でいかに稼働率を上げるかという視点も忘れてはなりません。当面はワークロードシフトで域外需要を誘致しつつ、並行して地域のデジタル需要を育成していくという両輪のアプローチが必須となります。
――自治体の意思、外部便益の見える化、初期投資と運用両面での環境整備が大事ということですね。DCを“箱もの”に終わらせないためには、もう一点、人材の問題も関わってきますね。
地方にある産業のデジタル化が進む中で、ロボットやシステムを運用・保守できる人材を地域で育てていく必要があります。米国マイクロソフトのように、DCを置いた地域でアカデミーを開設してAI人材を育成する取り組みも出てきています。これは地域還元と同時に地域のデジタル産業の受け口を作るという機能も果たしています。デジタル産業は若者に人気の高い就職先であり、その受け口が地域にあることで若者の地方離れを防ぐことにもなります。
大学や専門教育機関との連携、企業主導のアカデミー設立など、地域の規模や産業構造に応じた人材育成の仕組みを、DCの誘致と一体で考えることが重要です。DCがあることで人材育成の機会が生まれ、育った人材が地域産業のスマート化を支え、さらにデータ需要が生み出されるという好循環を、意図的に設計していく必要があります。
地方にDCを作っても、今すぐには十分なユーザーが集まらないかもしれない。しかし5年先、10年先を見据えれば、人口減少と高齢化が進む地域社会において、介護や医療、交通、農業といったあらゆる現場から膨大なデータが生み出されるようになります。
DC事業者の投資サイクルとは異なる、長い時間軸で明確な意思をもって地域社会が戦略を描き、行政・産業・金融が連携してそれを支えていくことで、DCはいろいろな意味で価値を生み出す地元地域の資産になるはずです。
西角直樹(にしかどなおき)
三菱総合研究所 政策・経済センター フェロー
1968年、神奈川県生まれ。東京大学工学系大学院修了。1997年、三菱総合研究所入社。情報通信分野の競争政策や料金政策などの政策立案支援、ブロードバンドやモバイルの事業戦略コンサルティングなどに従事。2020年より研究提言チーフとして情報通信分野の自主研究や大学などとの共同研究、政策提言の取りまとめを担当。








