年間100世帯以上の相談にのる発達障害専門のFPで、ADHD当事者でもある岩切健一郎氏が書いた『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』が発売中だ。本書には「ここまで寄り添ってくれるお金の本は初めて!」「お金に苦手感のある人は全員読んだ方がいい」など、発達障害の有無にかかわらず、多くの口コミが寄せられている。
同書の刊行に寄せて、著述家でADHD当事者でもある小鳥遊(たかなし)さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)
※現在、正式な診断名は「発達障害」から「神経発達症」へ変更になっていますが、この連載では広く知られている「発達障害」という表現を用います。
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うっかりミスで130万円の損!?
私はADHDの特性からか、物事を忘れずに、順序良く組み立て、そして実行することが苦手です。
そのせいで大学入学早々、あやうく留年しかけたことがあります。
法学部に入学した私は、それまでの「学校や予備校が用意したカリキュラムを受けるだけ」の生活から一転、自分で講義を選び、履修登録をしなければならなくなりました。これが、私には難しかったのです。
法学部1年生の必修科目だった「刑法」は、担当教授が留学する関係で、春学期に集中して講義が組まれていました。そのため、同じ時間に行われる別の必修科目を違う曜日に振り替える必要があり、初回講義時に必ず刑法の教授から書類にサインをもらって、事務局へ提出しなければなりませんでした。
それが講義振替に絶対に必要な段取りだったのです。
ところが私は、講義の振替のことをすっかり忘れていました。
初回講義の終わりに、法学部1年生が続々と教授のところへ行くのを見ながら、「ああ、なんかみんな教授のところに行ってるなぁ……」とボーッと眺めていたのです。
そしてそのまま、サークルのたまり場に直行してしまいました。
その後、「しまった!」と気づいたときには後の祭りです。
提出期限は迫っている。
教授がどこにいるのかも分からない。
刑法は必修科目。
必修を落とすと留年。
1年生の4月で留年決定?
大学の1年分の学費は、およそ130万円でした。
救済処置のようなものはあったのかもしれません。でも当時はまだ十代。社会経験もない私は冷や汗が止まりませんでした。
「たった一瞬のうっかりで、130万円が余計にかかってしまう!」という後悔と恐怖と焦りが渦巻いたあの瞬間は、30年以上経った今でも忘れられません。
「あるある」だったADHD TAX
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』には、ADHDの特性が原因でかかってしまうコストを、「ADHD TAX」という海外のスラングを紹介しながら解説しています。
・サブスクの解約忘れ
・レンタル品の返却忘れ
・出先で何度も買う充電器
などが該当します。
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』(P.105)
まさに「うっかり忘れ」の典型をしでかしてしまった私は、その後、今思うとなかなか無茶な行動に出ます。
刑法の教授がその大学の卒業生であることを初回の講義で知っていたので、すぐさま大学図書館に駆け込み、「教授の年齢は、見たところ40代か50代だな」とアタリをつけ、当時まだ図書館に置かれていた卒業生名簿をしらみつぶしに調べ始めたのです。今なら個人情報保護の観点から、まずできないことだと思います。
とにかく当時は必死でした。教授の名前と住所・電話番号を探りあて、ご自宅へ電話をかけたのです。
不躾な学生の電話にも教授は快く対応してくださり、最寄駅まで来てくださいました。サインをしていただいただけでなく、「勉強頑張ってね!」と法律雑誌の新刊まで持たせてくれました。
その後、無事に振替書類を提出することができました。
土壇場になると急に集中力と行動力が出る。
これも、今思えばADHDの「過集中」と「衝動性」の結果だったのかもしれません。もっとも、土壇場に追い込まれないのが一番ですが。
当時は無我夢中でしたが、今思うと完全に「ADHD TAX」です。それ以外の何物でもありません。しかし自分がADHDであると知るのは、その10年後のことです。もっと早く知っていれば、対策も早くとれたはず。
当時の私は、こうした失敗を「自分のだらしなさ」だと思っていました。
でも、今なら分かります。これは性格の問題ではなく、特性に合った仕組みを持っていなかったから起きた困りごとだと。
もし周りに発達障害の人がいて、「なぜこの人はミスばかりするのだろう?」と感じていたら、それは性格のせいではなく、脳の特性によるものなのだと思ってみてください。
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』は、そんな「自分を責めて終わり」にしがちなお金の失敗を、仕組みで考え直すきっかけをくれる一冊です。






