年間100世帯以上の相談にのる発達障害専門のFPで、ADHD当事者でもある岩切健一郎氏が書いた『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』が発売中だ。本書には「ここまで寄り添ってくれるお金の本は初めて!」「お金に苦手感のある人は全員読んだ方がいい」など、発達障害の有無にかかわらず、多くの口コミが寄せられている。
4月2日~8日は発達障害啓発週間。それに伴い、著述家で、ADHD当事者でもある小鳥遊(たかなし)さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)
※現在、正式な診断名は「発達障害」から「神経発達症」へ変更になっていますが、この連載では広く知られている「発達障害」という表現を用います。

【発達障害・お金のリアル】30年間借りていたお金を返した時、友人が言い放った一言Photo: Adobe Stock

30年返せなかった電車賃

 学生時代、友人から電車賃を借りました。
 口座から引き出してすぐ返せばいいと思って気軽に借りましたが、その「すぐ」ができませんでした
 通帳を持ってATMに行く。そのひと手間が、なぜか越えられなかったのです。

 その先延ばしは、なんと約30年も続きました
 先日ようやく「あのとき借りたよね。ごめん」と返そうとしたら、
 相手は、
「何のこと?」
 と笑っていました。

 笑って許してくれたものの、友人の頭の中では「小鳥遊=お金を返さない人」と一線を引かれてしまったのではないかという思いに縛られています。

 そんなの考えすぎでしょ? と思われるかもしれません。
 たしかに、私が過剰に気にしているだけかもしれません。
 世間一般には、よくあることなのかもしれません。

 しかし、今でもその友人と会ったり話したりするときは、気が引けたり、
 向こうが心を開いているはずなのに、遠慮してこちらから飛び込めなくなってしまっている自分がいる。
 それは紛れもない事実なのです。

小さな先送りが、お金より大きなものを失わせる

『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』には、著者自身が奨学金の返済が滞ってしまい、裁判所への出頭を命じられたという出来事が語られています。

日本学生支援機構に連絡すると、
「一括返済できないのであれば、分割返済のために裁判をするので、〇月〇日の〇時に必ず裁判所に来てください
と言われました。

(中略)

まさか自分が裁かれる日が来るなんて……。夢にも思っていませんでした。
なぜこんなことが起きたのか?
記憶をたどってみると「口座振替の申し込みが面倒」で起きてしまった出来事なのです。当時は毎月、自分でちゃんと振り込もうという強い気持ちでいました。でも私の場合、意思の力では難しく、どうしても先延ばしになってしまったのです。

『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』(P.30)

 著者のこの話は、決して特別な話ではないと思います。
 なぜなら、先延ばしのきっかけは、案外そんなものだからです。

 通帳を持ってATMに行くのが手間。
 口座振替の申し込みが面倒。

 どちらも、その場では「今すぐでなくてもいい」と思えてしまう程度の小さな壁です。
 しかし、小さいからこそむしろ厄介。越えられない壁ではないから後回しにしてしまい、気づけば見上げるほどの高さになっています。

 そこで失うのは、利息や延滞金だけではありません。
 やましさや後ろめたさのない気持ち自己肯定感、そして人との距離です。

 ちゃんと返せばよかった。
 今さら返せない。
 そんな思いが、自分を少しずつ縮こまらせていく。

 実際、私にとってもあの電車賃の一件は、金額以上の重さを持ち続けてきました
 本書は、そうした「お金にだらしない自分」を、頭ごなしに責めません。著者自身がまず失敗を隠さず差し出したうえで、「だから、こういうところに気をつけたほうがいいですよ」と具体的に教えてくれます。

 見たくない自分から目をそらすのではなく、それでも向き合ってみようと思わせてくれる。本書は、そんな一冊です。