朝ドラは「女性の自己実現ドラマ」? →長年視聴して気づいた“本当に描かれているテーマ”〈風、薫る第29回〉

朝ドラ男子の自己実現

 シマケンは小説家志望だった。まだ志望なので「何者でもない」と自信を持てないでいる。

 朝ドラでは主人公の女性の自己実現がテーマになることが多い。りんもいま、看護婦を目指して励んでいる。彼女は迷いが晴れて充実しているようだが、級友の玉田多江(生田絵梨花)は悩んでいた。

 家族の影響で医療に対する意識が高い多江。せっかく看護婦の勉強をはじめたにもかかわらず、縁談をすすめられる。父親にとって彼女の看護の勉強は嫁入り道具のひとつだった。結婚相手のために将棋を覚えておくといいなどと言われてしまう。

 自立した看護婦になりたい多江だが、世間からはそれが認められない。親には医者の夫を支えろと言われ、りんは「お嫁さんより婿取る女主人」が似合うなどと言われ……他者からの見られかたと自分の思いに苛まれしんどくなって、養成所を辞めると言い出す。

 このような女性の自己実現に対して、朝ドラの男性の自己実現はどう描かれているか。朝ドラ男子の仕事について、過去作の事例をあげながら考えてみよう。

 女性主人公のドラマが多いが、男性が主人公の朝ドラも時々ある。女性が主人公でも相手役の男性が活躍する作品も。なかで男性が大活躍するものはたいてい、実在する人物をモデルにした作品だ。

 代表的なものに『ゲゲゲの女房』(夫のモデルが漫画家・水木しげる、10年度前期)、『マッサン』(主人公がニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝とリタ夫妻。14年度後期、現在再放送中)、『まんぷく』(夫のモデルがカップラーメンを発明した日清食品創業者・安藤百福、18年度後期)。

『エール』(主人公のモデルが作曲家・古関裕而、20年度前期)、『らんまん』(主人公のモデルが植物博士・牧野富太郎、23年度前期)、『あんぱん』(夫のモデルがやなせたかし、25年度前期)、『ばけばけ』(夫のモデルが小泉八雲、25年度後期)など。

 主人公の夫はたいてい自己実現を成し、ひとかどの者になる。その場合、女性は夫を健気に支える側にまわる。このように朝ドラでは、女性主人公の内助の功が、男性たちを活躍させるような物語が主流だ。今回の『風、薫る』でもりんがシマケンを励ましていた。

 おなじく明治を舞台にした『あさが来た』(15年度後期)は「あほぼん」的な夫の支えにより、主人公は実業家として大活躍した。

『虎に翼』(24年度前期)も主人公が女性ながら法曹界で大活躍。彼女をとりまく男性たちも法曹界に従事する優秀な人物たちばかりだったが、主人公が彼らを支える側では決してなかった。

 なにも有名人ばかりではない。ごくふつうの労働者である男性も出てくる。『おむすび』(24年度後期)の主人公の父親が理容師だった。『風、薫る』の牧師・吉江を演じている原田泰造は『ごちそうさん』(13年度後期)で主人公の父役で、料理人だった。

 りんの父を演じた北村一輝は『スカーレット』(19年度後期)で主人公の父で運送業に従事しているが、酒量が多く、ちょっと困ったお父さん。男性キャラは、たいてい何かしらわかりやすい職業を与えられるか、定職につかないダメ父みたいなことになるケースも多い。