大学を卒業してからしばらく、実家の銭湯を手伝っていた田村さんは、昔ながらの薪を使った「釜番」も経験していた。釜番とは、銭湯のお湯を沸かす役割であり、かつては主に番頭さんがその役を担っていた仕事だ。

 湯を沸かす前には必ず煙道の掃除をしろ、と彼は父親に言われていた。

「3メートルくらいの長いブラシで、ゴシゴシと。あまりさぼっていると『そんなんじゃ、煙突から火を噴くぞ』って怒られていました」

 釜の掃除をすると、マスクをしていても鼻の穴が真っ黒になった。手袋をしても、細かな煤が繊維を突き抜ける。皮膚に付いた煤の色は、石けんで洗ってもなかなか落ちなかった。

 そんなこんなで、60歳を超えた父親が今後も1人で釜番をするのはきついだろうと、実家では最近、薪に加えてガスも併用している。マンションの1階にある「日の出湯」の燃料はもちろん、ガスだけだ。

オープン直後が最も混雑
今も高齢者と外国人に人気の銭湯

「この日の出湯、マンションに建て替えたのはいつ頃ですか?」

「1999年から2000年にかけて、です。決めたのはうちの父親。建築屋さんには止められたらしいですよ、今どき、銭湯の時代じゃないですよって」

「お父さんは、それでも銭湯を残そうと思った訳ですか?」

「その頃はまだおじいちゃんが生きていましたので、その手前、なくす訳にはいかん、と。でも、おじいちゃんはそれ聞いて、こう言ったらしいです。『なんでお前、また銭湯なんか作ったん?』と」

 日の出湯には今も、1日100人前後の客が来る。最も混むのは、営業開始直後の午後3時から午後5時ぐらいまでの間だ、という。

「みなさん、そんなに早くお風呂に入るんですか?」

「僕も謎なんですよ。まあ、その時間帯に来る方は、ほとんどがお年寄りですけれど……」

「年齢層で言うと?」

「60代から80代。ほとんどが常連さんです」