社会人になったら、誰もが充実した日々を送りたいもの。そこで、自身が培ってきた仕事に臨む姿勢を伝えたい、と生まれた『入社1年目の教科書』は超ロングセラーとなった。基本的なことが書かれていると思いきや、すでに社会に出ている人たちもハッとする内容に、新入社員のみならず、管理者にも読まれている。著者は執筆当時、ライフネット生命の副社長だった岩瀬大輔氏。新人もベテランも一生使える50の行動指針の奥深さとは?

【コピー1枚で差がつく…】「仕事ができる若手社員」に共通する仕事の習慣Photo: Adobe Stock

「何のためか」をしっかり把握する

 2011年の刊行から毎年のように重版され、今なお売れ続けるロングセラーとなっている本書。これから社会に出ようとする学生、社会に出たばかりの新入社員に支持されているのはもちろん、親御さんからお子さんへのプレゼントとしても好評だという。

 また、後輩や部下指導を行う管理者や、新人研修の担当者からも評価されている。新人研修用の書籍として一括注文をしている、という会社もあるそうだ。

 著者の岩瀬大輔氏は、東京大学法学部在学中に司法試験合格。ボストン コンサルティング グループなどを経て、ハーバード大学MBAを修了。成績上位5%に与えられるベイカー・スカラーの称号を受けている。

 2006年には、ライフネット生命の母体となる会社を設立、本書の刊行当時は副社長を務めていた。のちに社長、会長を経て2019年に退任。現在はベネッセコーポレーションの代表取締役会長兼社長を務めている。

 本書がなぜこれほどまでに長く支持されてきたのか。

 それは、具体的ですぐに取り組めるメソッドが書かれている一方で、極めて普遍的で本質的な学びを得られるからではないか。それこそ入社1年目では著者の本意がわからなくても、その価値は年を経てじわじわと理解できていく。そんな内容が盛りだくさんなのだ。

 例えば、本書で展開される50の行動指針の一つ“「何のために」で世界が変わる”。

仕事の優先順位をつけるうえで、最も重視すべきは締め切り日です。これを逃してしまっては、いくら出来栄えが良くても意味はありません。(中略)
そして、もう一つ必ず押さえておくべき要素があります。
「何のためですか?」(P.26-27)

 簡単なレポートの仕事を依頼されたとき、真っ先に聞かなければいけないことは、「いつまでに必要ですか?」だろう。

 30分後の来客のために必要な素材なら、重要なポイントに焦点を当てたレポートを作るべき。来週までに送りたいという指示であれば、関連したニュースを添えることもできる、と著者は記す。納期によって、仕事のやり方は変わるからだ。

 しかし、「何のためか」がわかっていなければ、ピント外れのレポートを出してしまう可能性がある。これをしっかり聞けるか、聞けないかで仕事のアウトプットは大きく変わってしまうのだ。

小さな雑務も、プロジェクトにとって意味がある

 レポートだけではない。資料のコピーを頼まれるといった単純作業でもあなどってはいけないと著者は記す。

 いや、単純作業こそ、あなどってはいけないだろう。なぜなら、「何のためか」を理解したうえでのアウトプットと、理解できていないアウトプットでは、まったく違うものになりかねないからだ。

上司個人の予備として保管するためなのか。お客さまに配布するためなのか。会社の共有資料としてファイリングするためなのか。それぞれの目的によってコピーのやり方は違ってくるはずです。さらに言えば、目的によって優先順位すら変わってくることもあるのです。(P.27)

 こいつは仕事ができるな、と思ってもらえる人は、「こういうふうにしてもらえるといいな」と思って指示されたことに対して、しっかりと応えてくれる人だろう。

 だが、「こういうふうにしてもらえるといいな」がわかっていないのに、期待されているものを出すことはできない。

 では、どうすればいいのかというと、「何のためですか?」と聞けばいいのである。

 これはコピー取りに限らない。データ作成でも、スライド作成でも、何かの予約のようなちょっとした雑務でも、すべて同じだ。

 だが、「何のためか」を言ってくれる上司ばかりとは言えない。

上司からのオーダーは、そのプロジェクト全体から切り出した一部分です。通常であれば細かい注文までは出してきません。しかし、どんな単純作業にも必ず背景があり、大きな目的に沿って動いているのです。(P.27-28)

 ほんの小さな雑務も、プロジェクトにとって何か意味があるのだ。一つ一つの仕事がどこを目指しているのかを知ることで、仕事のクオリティは明らかに変わる。

 それだけではない。単純な作業の意味は激変する。つまらない仕事にはならなくなる。仕事がつまらなくなるのは、「何のためか」がわからないからだ。

 もちろん「何のためか」がわかっても、すぐには上司の求めるようにはできないかもしれない。それでも、「何のためか」を聞き、そこに近づけようという意識、そうした仕事に向かう姿勢は上司の評価につながる。

 こういう人に、「また頼もう」という気持ちになる。

できる上司は「何のため」を語ってくれる

 そしてここで、著者は上司にも注文をつける。もし上司として部下にコピーを頼むとき、どちらがより良い仕事をしてもらえそうだと感じるか、と問うのだ。

「これを5部コピーしてくれ」
「取締役会で、社外取締役に対して案件の内容を説明するために必要だから、5部コピーしてくれ」(P.28)

「社外取締役だから、あの資料も添付しておこう」「年配の人が多いから、拡大コピーで大きく見せよう」「わら半紙ではなく良質の紙を使おう」。こうした工夫が生まれるのは、背景を説明した後者のオーダーであることは明白だと著者は記す。

 だが、部下としては、上司が言ってくれないからといって、「何のため」を聞かずに進めようとしてはいけない。それでは上司が求めるものは出せないからだ。

 この文章を書いている私は、長くフリーランスで書く仕事をしているが、実は同じようなことを最も重視してきた。

 発注者が何を求めているか、だ。それがわからなければ、発注者が求めているものは出しようがないのである。相手の100点がイメージできなければ、100点に近づけることはできないのだ。

 著者もこう記す。

何かを説明する相手が、友人か、両親か、祖母か、子どもかによって、内容が同じであっても、使う言葉も、使うものも変わるのが普通です。社外の人か社内の人か、社内の人でもどういう人なのか、どういう前提条件、知識を持っている人に対するものかを知れば、付加価値のつけ方は変わってきます。(P.29)

 そして、ここからがまた、普通のフレッシュマン向けの書籍とは異なる本書の真骨頂といえるかもしれない。「何のためか」は聞くべきなのだが、聞き方に気をつけなければいけないということである。

気をつけてもらいたいのは、いきなり「何のためですか?」という問いを発しないことです。いったんは「わかりました」と答え、そのうえで「それは何のために使うのですか?」と尋ねるべきでしょう。(P.29)

 そうなのである。いきなり最初に「何のためですか?」と聞いてしまっては、「もしかして、こいつはやりたくないのか?」などと思われかねないのだ。仕事に消極的だと誤解されてしまうかもしれないからである。なかなかに深い。

 仕事のクオリティを上げ、仕事のモチベーションを上げ、上司からの評価も上げる、シンプルだけれど、とっておきの方法。フレッシュマンだけでなく、すべてのビジネスパーソンが知っておいたほうがいい指針なのである。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『「また頼みたい」と言われる人がやっていること』(CEメディアハウス)、『東京ステーションホテル 100年先のおもてなしへ』(河出書房新社)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』(日経ビジネス人文庫)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。