社会人になると、個人の売上、所属部署や支店・支社名、会社の売上規模や業界全体でのポジションなど、あらゆる「ものさし」で評価される。
息苦しさを覚えて転職してみても、「前職は大手企業」と同期からマウントされ、結婚して産休を取ってみても今度は同級生から「私は◯◯病院で産んだの」と産院マウントを取られる始末…。そう、生きている限り、私たちはマウントから逃れることはできない。
とりわけ他者との比較から生まれる「マウンティング」は、社会人生活において避けて通れないものとも言える。
では、入社1年目の新人は、マウントとどう向き合い、ストレスフリーに付き合っていけばいいのだろうか。
特に多いのが金銭的な成功や地位を示すためのマウントであるが、書籍『人生が整うマウンティング大全』ではあえてそこに触れていない。その理由とは?
本書の企画・プロデューサーである勝木健太氏と『入社1年目の教科書』の著者・岩瀬大輔氏が、誰もが知っておくべき「マウント」の本質について語り合う。
(撮影/佐久間ナオヒト、構成/和田史子)

66万部突破のベストセラー『入社1年目の教科書』『入社1年目の教科書 ワークブック』著者・岩瀬大輔氏岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)
ライフネット生命保険株式会社創業者
1976年埼玉県生まれ。1997年司法試験合格。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン コンサルティンググループ等を経て、ハーバード大学経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で終了(ベーカー・スカラー)。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げ、2013年より代表取締役社長、2018年6月より取締役会長。2020年よりスパイラルキャピタルのマネージングパートナーに就任。著書は『入社1年目の教科書』『入社1年目の教科書 ワークブック』(ダイヤモンド社)など多数。

世の中99%のマウンティングは…

岩瀬大輔(以下、岩瀬) この本(『人生が整うマウンティング大全』)のすごくいいところは、実際の世の中でよくあるマウンティングにまったく触れていないところ。
いわゆるお金持ちマウントみたいものがないんですよね。

どんな車に乗っているとか、あそこに住んでいるとか。
世の中99%は「ちょっとだけお金持ちマウント」のような気がするんです。
だから、お金の話を一切していないのが、この本のいいところだなと。

本の中に出てくる「残念なマウント」も、例えば奥さん同士で産院の話をするなど、ある意味一周しているというか。もしお金持ちのネタを入れてしまっていたら、逆に生々しくて感じ悪くなったかもしれません。ちゃんと笑えるところをピックアップしていると感じたんです。
(編集部注:書籍『人生が整うマウンティング大全』では、出産病院の“格”の高さでママ友コミュニティ内でのポジショ二ングを競い合う「残念なマウン卜」の一つとして「産院マウント」を取り上げている)

勝木健太(以下、勝木) そうですね、格差になってしまうと笑えないかもしれません。「金持ちマウント」ではあたりまえすぎて、本にはならなかったと思います。

マウントがメタ認知のきっかけに

『人生が整うマウンティング大全』企画・プロデューサー・勝木健太氏勝木健太(かつき・けんた)
株式会社And Technologies代表取締役
株式会社アンドプラネット代表取締役:1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスのコンサルタントとして独立。約1年間にわたって国内大手消費財メーカー向けに新規事業・デジタルマーケティング関連プロジェクトに参画した後、2019年6月に株式会社And Technologiesを創業。2021年12月に全発行済株式を株式会社みらいワークス(東証グロース:6563)に譲渡し、執行役員・リード獲得DX事業部 部長に就任。執筆協力実績として『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』がある。

勝木 実は『人生が整うマウンティング大全』を出したきっかけが、メタ認知を与えるきっかけを提供するというものだったんです。
(編集部注:メタ認知とは、自己の思考プロセスを意識すること)

歴史や哲学を学ぶ理由や目的もそこ(メタ認知)にある気がするんですよね。
その意味でいうと、「お金持ちマウント」を取り上げて「なるほどそうですね」となったとしても、「So what?(だから何?)」だと思うんです。
(編集部注:論理的に考えることで思考を整理するフレームワークの一つに「So What?」がある。勝木氏も働いていたことのあるコンサルティング業界でよく使われる手法)

岩瀬 たしかにそうですね。あと、歴史や古典の話をされても、内容を理解してないと「マウントされているかどうかわからない、気づかない」といったことが起こり得ますよね。『人生が整うマウンティング大全』は、そうしたマウントの背景にあるコンテクスト(文脈)を理解するための本でもあるのかなと。

真の教養人とそうでない人との大きな違い

勝木 岩瀬さんのような真の教養人は別ですが、よく「教養ふりかざす系」の方で単なる知識マウントになってしまっているパターンを見かけます。本来は人間理解のための「体系知」を得るための教養なのに、ただそれをマウントの道具に使ってしまっています。

岩瀬 たしかに、出口治明さんを想像すると、マウントとはかけ離れた存在だと感じます。
(編集部注:ライフネット生命の共同創業者で、立命館アジア太平洋大学の学長を務め、世界史の本などを多数出版している真の教養人)

勝木 「岩瀬くんはハドリアヌス帝よりも素直だ」と出口さんは岩瀬さんを褒めていらっしゃいました。そこに誰かに対するマウントは一切ないですよね。
(編集部注:ハドリアヌスはローマ帝国の全盛期の皇帝。ローマ帝国・五賢帝の一人に数えられる人物。出口氏は読書家としても有名で、雑誌「AERA」で人生を支えた本として『ハドリアヌス帝の回想(新装版)』を取り上げている)

岩瀬 単に本人(出口さん)のボキャブラリーがそれなんです。
(編集部注:岩瀬氏によるとライフネット生命の社長・出口氏、副社長・岩瀬氏時代から、日常会話に世界史の人物が出てくることはあたりまえだったのだそう。ちなみに、出口氏は翻訳家の上野真弓氏と共著で『教養としてのローマ史入門』という本も執筆している。)

メタ認知を与えるきっかけっていうのはおもしろいですね。
自分も含め、みんなが無意識にやっていたことから、「あれ?」という気づきがある。
読んだ人たちにすごい影響を与えている本かもしれませんね。

そう考えると、私たちの日々の生活は、マウンティング的なもので成り立っていることがわかります。マウントはある種のコミュニケーションの手段なのかもしれません。

※対談の最終回は、ビジネスや人生にマウンティングを活用する方法を紹介。明日公開予定です。お楽しみに。