「海外留学マウント」「タワマンマウント」「東大卒をあえて否定するマウント」など、この世は数え切れないほどのマウンティングにあふれている。
相手に対して自身が優位な立場であることを誇示する意味合いで用いられるこの言葉は、とかくネガティブなものとして捉えられがちだ。これほどまでに忌み嫌われているマウントは、なぜなくならないのだろうか?
マウントがもたらすものとは何か。光に目を向けると、意外な効用が見えてくる。マウントを上手く活用することで、人間関係を円滑にし、ビジネスチャンスにもつながる可能性があるということは案外知られていない。
そこで『人生が整うマウンティング大全』の企画・プロデューサーである勝木健太氏と『入社1年目の教科書』の著者・岩瀬大輔氏に、「マウント」をビジネスや生きていく上でどう活用していくかについて伺った。
(撮影/佐久間ナオヒト、構成/和田史子)

66万部突破のロングセラー『入社1年目の教科書』『入社1年目の教科書 ワークブック』著者・岩瀬大輔氏と『人生が整うマウンティング大全』著者・勝木健太氏顧客の「マウンテイング欲求」に着目すると、アップルやスタバ、Facebook、テスラといったアメリカ企業の成功の理由が浮き彫りになる。私たちはモノやサービスではなく、極上のマウンティング体験にお金を払っているのだ

自分は特別な存在と思わせる
「マウンティングエクスペリエンス」

『人生が整うマウンティング大全』著者・勝木健太氏勝木健太(かつき・けんた)
株式会社アンドプラネット代表取締役
1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスのコンサルタントとして独立。約1年間にわたって国内大手消費財メーカー向けに新規事業・デジタルマーケティング関連プロジェクトに参画した後、2019年6月に株式会社And Technologiesを創業。2021年12月に全発行済株式を株式会社みらいワークス(東証グロース:6563)に譲渡し、執行役員・リード獲得DX事業部 部長に就任。執筆協力実績として『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』がある。

岩瀬大輔(以下、岩瀬) 『人生が整うマウンティング大全』の後半の「マウンティングはイノベーションの母」でも興味深い事例がたくさん出ていましたね。
「米国企業の競争力の源泉はマウンティングエクスペリエンス(MX)の設計能力にあり」というのも頷けました。

勝木健太(以下、勝木) ありがとうございます。

本を読んでいない方のために補足しますと、マウンティングエクスペリエンスはマウンティングを通じて人々が得る至福感、多幸感、悦惚感のことで、要は自分は特別な存在である
と認識、もしくは「誤認」させてくれる体験
のことを指します。

マウントという言葉は何かとネガティブな印象を持ちやすいのですが、逆転の発想で「マウントすることで得られる喜びを、相手に提供しよう」というふうに考えると、ビジネスチャンスが広がるのではないかと本では伝えています。

岩瀬 マウンティングエクスペリエンスといえば、できる接客業の方の相づちは「さしすせそ」を使う、といった話を思い出します。
相手を気持ちよくさせてあげるっていうのは、元々みんなやってることですよね。
(編集部注:話し相手を気持ちよくさせる相づちの「さしすせそ」 とは、さ「すがです」 し「らなかったです」 す「ごいです」「てきですね」せ「ンスがいいですね」そ「うなんですか(ね)」などと言われている)

それをもう少し解像度を上げて、単に相手を気持ちよくするのではなくて、上に立たせてあげて、それを喜んでるのを認識した上でつなげるというのがビジネスであり、コミュニケーションの要諦かもしれません。

勝木 AbemaTVのある番組でひろゆきさんと国内最大級の暗号資産(仮想通貨)取引所のビットフライヤー執行役員・金光碧さんがビットコインに関する討論をされていたのですが、金光さんはひろゆきさんのほとんどすべての発言に対して「まさにひろゆきさんのおっしゃる通りで」と返していました。

あと、ホリエモン(堀江貴文)と成田悠輔さんの対談の番組で、出会うやいなや、「僕は堀江さんの『NO TELEPHONE』という曲が好きで、50回ぐらいPV(MV)を見ています」とおっしゃっていました。
相手の作品を褒めるというのもありますよね。自分の書いた本とか、作品を褒められて嬉しくない人はいないので。