「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。
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決定的な違いは
「個人に合わせたKPI設定」にある
――同じようにマネジメントしているつもりでも、部下がどんどん成長する上司と、なかなか部下を育てられない上司に分かれます。この差はどこから生まれるのでしょうか?
部下の現在の課題に基づいたKPI(重要業績評価指標)を設定できているかどうかです。
部下を育てられない上司は、部下の行動を十分に見ていないケースが多いです。そのため、部下に何が足りないのかを把握できていません。
そうした状態で、単に「売上目標を達成しなさい」と繰り返しても、意味がありません。その部下には何が不足していて、何を頑張らなければいけないのかを具体的なKPIとして示すことが必要です。
重要なのは、これが汎用的なものではなく、部下個人に合わせたオーダーメイドのKPIであるという点です。何が欠けているのか。それを埋めるために何をすべきか。何ができれば達成といえるのか。
この3点がそろって初めて、部下は成長の道筋を見つけることができます。
――一方で、「部下が育たない上司」は、どのような接し方をしてしまいがちなのでしょうか?
部下の行動を全く見ていない、部下の話を聞いていないというのは論外ですが、実はそれ以上に問題なのが「話を聞いているだけで、課題を整理できない上司」です。
心理的安全性を高めようとして、部下の話に親身になって耳を傾ける。一見すると良い上司に見えるかもしれません。
しかし、部下が抱えている課題を見抜けていなければ、何も解決しません。
部下からすれば、成長のためのヒントは何ももらえない状態になります。これでは、相談相手ではなく、単なる話し相手になってしまいます。
これは、優しいけれど部下が育たない、いわゆるホワイトハラスメントに陥っている上司の典型的なパターンです。
部下の課題を正確に把握するための方法
――では、部下の課題を正確に把握し、適切なKPIを設定するためには、具体的にどのようなことをすればよいのでしょうか?
まず、求められている結果を部下が出せているかどうかを、客観的に把握する必要があります。
営業であれば売上目標を達成できているのか。採用担当であれば、必要な人材をどれだけ採用・育成できているのか。求められている成果と現状の差分を確認します。
そして、差分がある場合は、その差分がどこから生まれているのかを明確にします。
次に、その差分を埋めるために、どのようなリソースや能力が不足しているのかを分析します。リソースが足りないのであれば追加する必要がありますし、能力が不足しているのであれば、その能力を高めるための道筋を示す必要があります。
そのうえで、達成できている状態を客観的に測定できる形で定義します。
――この時に何か気を付けるべきことはありますか?
当初設定した評価軸を、途中でずらしてはいけません。最初に設定したKPIに対して、何ができていて、何ができていないのかを継続的に見続ける必要があります。
もしそれでも達成できないのであれば、本人と役割が合っていない可能性もあります。その場合は、早い段階でそのミスマッチに向き合うことも、本人にとって大切なことです。
部下を育てるとは、ただ話を聞き励ますことではありません。今の役割で成果を出すために何が足りないのかを見極め、成長の階段を具体的に設計することです。
良い戦略は、強いチームがあって初めて実行される
――「部下を育てる力」と『戦略のデザイン』の考え方は、どのようにつながっていますか?
特に重視しているのは、単に良い戦略を作るということではありません。環境に合わせて戦略を変化させながら、実行に向けて前に進めていくことです。実行されない戦略は、絵に描いた餅でしかありません。
そして、戦略を実行していくためには、メンバーをどう育てるのか、どうやってチームを作るのかが極めて重要になります。
本書では、戦略をデザインするプロセスを、人材育成やチーム構築も含めて考えています。良い戦略と強いチームは切り離せないものなのです。
――最後に、部下の育成に悩んでいるマネージャーへ、今日からできるアドバイスをお願いします。
まず、「あなたの部下に今何が足りていないか」を、一言で説明できるか問い直してみてください。
もし一言で言えないのであれば、部下の観察が足りていないか、観察した結果をもとに考え抜けていないかのどちらかです。
部下が今の業務や役割を達成できていないのは、なぜなのか?
その理由を一言で説明できるようになるまで、観察し、考え抜くことです。全ての起点はそこにあります。
『戦略のデザイン』では、戦略を実行するためのチームづくりや人材育成についても体系的に解説しています。良い戦略を描けても、実行するチームが弱い、という悩みを持つマネージャーにとっても、役立つ内容となっています。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




