「いつまでも頭が冴えている人」がやっている習慣とは?
脳は誰でも衰えていく。そんなふうに考えていないだろうか。実際、脳の神経細胞は加齢とともに減少し、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβも少しずつ蓄積していくことが知られている。しかし近年の研究によると、私たちの脳には、新たな神経細胞を生み出し、残された神経細胞同士のつながりを強化する力が備わっているという。では、その力を引き出す方法とは?
元オックスフォード大の医学研究者であり、「糖と脳」の専門家である下村健寿氏の著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』から、その答えを紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・石井一穂)

【医師が教える】「いつまでも頭が冴えている人」と「脳が老いていく人」の決定的な違いPhoto: Adobe Stock

「認知症になりにくい脳」の特徴

 人間の脳は海馬でのみ、新たな神経細胞が発生するとわかっている。

 この働きを促してくれる物質が「脳由来神経栄養因子(BDNF)」だ。

 BDNFは「肥料」のようなものである。

 新たな神経細胞になる「タネ」が埋まっている肥沃な土壌である海馬に、BDNFという肥料をたっぷりとかけることで、新たな神経細胞が芽生えて成長していく。

「これが、認知症になりにくい脳をつくることにもつながっています」

 そう語るのは、元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家である下村健寿氏だ。

 下村氏は著書『糖毒脳』で、このように指摘している。

 さらにBDNFには細胞の新生だけでなく、脳の中で生き残っている神経細胞同士の「つながり(シナプス)」を増やしたり、そのつながりを強化したりする作用もあります。残っている神経細胞同士の情報伝達の効率を高める「チューンアップ」も行っているのです。先述のとおり、神経細胞の数が減っていても情報伝達の効率が飛躍的に上がれば、脳全体のパフォーマンスは向上します。
――『糖毒脳』より引用

いつまでも「頭が冴えている人」の習慣

 この奇跡のような役割を果たすBDNFを作るために必要なのが、「運動」だ。

 その理由を、下村氏はこのように説明している。

 近年の研究から、運動をすると筋肉から「ミオカイン」と呼ばれる一連の生理活性物質が分泌されることが明らかになりました。
 ミオカインは脂肪や肝臓、膵臓など様々な臓器に作用して代謝を調節したり、全身の炎症を抑制したりと、体にとって非常に良い効果をもたらすことがわかっています。
 このミオカインが脳にも直接作用し、脳の中でBDNFの発現を促すのです。

――『糖毒脳』より引用

 運動は、新しい脳細胞を作る上で非常に効果的であるということだ。

 実際に下村氏も、平日の朝に4キロ、休日は8キロ、欠かさず走るようにしているそうだ。

「そんなに走れない……」と、落ち込む必要はない。

 下村氏はこう言っている。

 私の運動量は、はっきり言って過剰です。運動が好きだからやっているだけであって、認知症予防にここまでの運動は必要ありません。
 皆さんにおすすめしたい運動内容は、拍子抜けするほど簡単なものです。

 それは、ウォーキングです。
 息が軽く切れる程度の早足で、1日30分程度、週に合計で150分以上歩く。
 これが、医学研究に基づくアルツハイマー病の予防に有効とされる運動量です。

――『糖毒脳』より引用

 通勤時に1駅分を歩いて、移り変わる景色を楽しみながら散歩する。

 週末に気の合う友人や家族と一緒に散歩する。

 そんな楽しい時間として過ごしてみてもらいたいと、下村氏は言う。

 楽しい運動であるからこそ、長期間にわたって続けやすくもなるだろう。

認知症予防に「ウォーキング」が最も効果的である理由

 下村氏がアルツハイマー病を予防する手段としてウォーキングを提案しているのは、なにも、それがラクな方法だからではない。

 ウォーキングこそ、最も効果的な運動だからだ。

 その秘密は「ある筋肉」にあるという。

 2022年にアメリカのヒューストン大学の研究者たちが、非常に興味深い論文を発表しました。彼らが注目したのは「ふくらはぎ」の機能です。
 ふくらはぎの筋肉は、腓腹筋とヒラメ筋という二種類の筋肉の総称である下腿三頭筋から構成されています。
 このなかでもとくに重要なのが、腓腹筋の下に隠れているヒラメ筋です。このヒラメ筋こそ、アルツハイマー病予防の「鍵を握る筋肉」です。

――『糖毒脳』より引用

 ヒラメ筋は、歩いていてかかとが地面から離れる瞬間、つまりつま先で地面を蹴り出すときに使う筋肉だ。

 文字どおりその外見が魚のヒラメに似ていることから名づけられた。

 この「ヒラメ筋」が重要である理由を、下村氏はこのように説明している。

 ヒューストン大学の研究者たちは、ヒラメ筋が全身の筋肉のなかで最も効率的に糖を消費できることを発見しました。インスリンの力を借りずにどんどん糖を消費してくれる「スーパー筋肉」なのです。
 どうやらヒラメ筋には他の筋肉に比べて、糖を取り込むためのドア(GLUT4)がもともと多く存在しているようです。人類が二足歩行を始めた太古の昔から、歩きやすく、効率的にエネルギーを使えるための筋肉として進化してきたのでしょう。

――『糖毒脳』より引用

 また、ヒラメ筋は持久力に優れた「遅筋線維」というタイプの筋肉でできているため、長時間歩くのに最も適した筋肉であるとも言えるそうだ。

 ヒューストン大学の研究成果は、このヒラメ筋を使った運動が、血糖値を下げるのに非常に効果的であることを報告している。

 つまり、「歩く」ことだ。

 これが、いつまでも「冴えた頭」でいるために、ウォーキングがおすすめである理由だ。

(本稿は、『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容を引用して作成した記事です)

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。