30年で売上を250倍にしたカリスマベンチャー農家の澤浦彰治氏の著書、『農業で成功するために本当に大切なこと』の刊行を記念して、久松達央氏との対談が実現。その様子を、前後編でお届けします。(文/石井晶穂)
Photo: Adobe Stock
働きたい人は働ける仕組みをつくる
久松達央(以下、久松):「働き方改革」は、澤浦さんの本でも、僕の本でも取り上げている共通のトピックですね。個人的には、今の日本社会の病理のひとつだと思っているんです。
農家に限った話ではありません。たとえば、外食の現場でも、料理人の負担を減らすためにカットねぎを使うところが増えています。
そのことで、修行中の若い料理人に「刻み」の技術が身につかないようなことが現実に起きている。労働者を守るための「働き方改革」が、結果的に若年労働者の訓練を阻害しているのは、本当にまずい状況だと思います。
澤浦彰治(以下、澤浦):日本で最初に週休2日制を取り入れたのは、松下電器産業(現・パナソニック)と言われていますが、当時、工場で働く社員からこんなクレームが出たそうです。「週2日も休んでいたら、自分たちは機械の使い方やモノのつくり方をいつ勉強したらいいんだ」と。そこで土曜日に会社を開けて、いろんな技術を学ぶ場をつくったそうです。
ところが、今の人たちは、休みになったら遊んでばかりの人が少なくない。アフターファイブも、仕事のことはすっかり忘れて、スキルアップにつながることを何もしていない。
久松:ちゃんと自己投資をするなら、週休2日でもかまいません。でも、何もしないとなると問題ですね。
もっとたくさん働きたい人は、労使が合意さえすれば働かせてもいいことにするべきです。
澤浦:おっしゃるとおりですね。働きたい人が働ける、スキルをつけたい人がスキルをつけられる仕組みをつくらないと、日本の将来は暗いと思います。
久松:今回の本で対談させてもらった建築業界の方も、同じようなことを言っていました。
今の社会は、経営者は悪いことをするやつで、労働者を守らなくてはいけないという建てつけになっているので、そこから変える必要があると思います。
問題だらけの日本の大学教育
澤浦:先日、ある上場企業の社外取締役にお会いしたんです。その方が、「私はもう、日本人を雇用するつもりはありません」とはっきりおっしゃっていました。
「海外に目を向ければ、もっと優秀な大学生がいっぱいいるのに、なぜ日本人の大学生を雇わないといけないんですか」と。
久松:日本人の給与がやや低いのは、それだけのスキルを持っていないという理由なんですよね。よく若い人が、「もっと会社はジョブ型雇用を進めるべきだ」って言うんです。
もちろん賛成だけど、でもそれって若い人にとっては過酷な社会ですよね。
なぜって、大学を出たばかりの若者の多くは、何のスキルも身についていないからです。自己投資をして、スキルを磨く気がなかったら、大変な人生になるよって思うんです。
澤浦:スキルがないと、会社から選んでもらえないですからね。これは大学教育の問題にもつながるんですが、今の日本の大学生って、卒業してすぐに社会で活躍できる人が本当に少ない。
うちの子どもは、たまたま3人ともアメリカの大学に通っていたんですが、向こうでは土日も放課後も真剣に勉強して、スキルを身につけないと就職できないと言っていました。夜中の3時になって、ようやく「そろそろ寝ようか」と。
そして、朝の6時にはもう学校にいるそうです。「これでは日本は負けるしかない」と言っていました。
久松:どんどん日本は置いていかれますね。
澤浦:ある経済団体では、「全人格的教育」というものを標榜しています。「社員を雇ったなら、その人の人生を預かるくらいの気持ちで教育するべきだ」というんです。
昔のように、15歳で集団就職で東京に来たような若者には、挨拶のし方とか、お金の使い方を教える必要はあるでしょう。まだ子どもですからね。
でも、今の大学生は、22歳で会社に入ってくるんです。
もう立派な大人なのに、挨拶から教えろってどういうことですか、と。「スキルのない人は採用しません」と企業側がはっきり言わないと、いつになっても大学教育は変わらないと思います。
「外国人労働者」問題をどう考えるか?
久松:雇用といえば、澤浦さんが今回の本でも書かれている「外国人労働者」の問題もあります。80年代からこの議論があったにもかかわらず、国はきちんとした制度をつくらずに、その場しのぎの対応をくり返してきました。
一方、澤浦さんの会社は、古くからこの問題に取り組んできましたよね。外国人労働者に対して、住宅の確保から日常生活のサポートまで、手厚いケアをしている。当然、日本人を雇うよりもずっと手がかかるでしょう。
にもかかわらず、世間では安易な排斥運動みたいなものが起きています。民間企業の中でも、外国人を受け入れようとしない人たちもいる。
それが、澤浦さんとしては我慢ならないわけですよね。
澤浦:「日本人を積極的に雇用すべきだ」みたいなことを、経済団体も言うわけです。
だから、「そんなきれいごとを言うのはやめて、具体的にどう受け入れをしていくか、そういう現実的な議論をしましょうよ」と提案しました。でも、なかなか理解してもらえませんでしたね。
久松:そんな状況に対して、澤浦さんは社屋に世界の国旗をいっぱい立てているんですよね。
本では穏やかに書かれていますけど、すごく強いメッセージだなと感じました。
澤浦:「外国人けしからん」って言うけど、コンビニで弁当を買って食べてるだろうって。お前のばあちゃん、いったい誰に介護してもらっているんだよって。
そういう現実を棚に上げて、ただ「外国人を受け入れるべきではない」というきれいごとを言っている。そこが問題なんです。
久松:澤浦さんも僕も、生身の経営者だから、きれいごとなんて言ってられないんですよね。
澤浦さんはこの問題にずっと取り組まれている方だから、書かれている以上のことが伝わってきて、すごくグッときました。農家だけでなく、中小企業の社長さんなどにも読んでもらいたいですね。
澤浦彰治(さわうら・しょうじ)
グリンリーフ株式会社代表取締役、株式会社野菜くらぶ代表取締役
1964年、群馬県昭和村生まれ。1983年群馬県立利根農林高等学校を卒業後、群馬県畜産試験場での研修を経て、実家にて就農。こんにゃく価格の暴落をきっかけにこんにゃくの製品加工に着手。92年、3人の仲間とともに有機農業グループ「昭和野菜くらぶ」を立ち上げ、有機栽培を本格的に開始する。94年、家業を農業生産法人化させる。96年、有限会社野菜くらぶを設立し、2002年に野菜くらぶを株式会社化した。2012年と2024年に『ガイアの夜明け』(テレビ東京)出演。2025年4月刊行の週刊ダイヤモンドでは「レジェンド農家ベスト20(4位)」「農家が選ぶカリスマ農家」として紹介される。著書に『小さく始めて農業で利益を出し続ける7つのルール』、『農業で成功する人 うまくいかない人』(ともにダイヤモンド社)がある。最新刊は『農業で成功するために本当に大切なこと』(ダイヤモンド社)。
久松達央(ひさまつ・たつおう)
(株)久松農園代表
1970年茨城県生まれ。1994年慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)を経て、1998年に農業に転身。年間100種類以上の野菜を自社で有機栽培し、卸売業者や小売店を経由せずに個人消費者や飲食店に直接販売するDtoC型農業を実践している。生産・販売プロセスの合理化と独自のブランディングで、経営資源に恵まれなくとも、補助金や大組織に頼らずに少数精鋭のチームが自分の足で立つ「小さくて強い農業」を標榜する。他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)、『農家はもっと減っていい~農業の「常識」はウソだらけ』(光文社新書)。最新刊は『おいしい日本の野菜が消える日』(光文社新書)。





