30年で売上を250倍にしたカリスマベンチャー農家の澤浦彰治氏の著書、『農業で成功するために本当に大切なこと』の刊行を記念して、久松達央氏との対談が実現。その様子を、前後編でお届けします。(文/石井晶穂)
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優れた経営者に共通していること
澤浦彰治(以下、澤浦):久松さん、本日はよろしくお願いします。『おいしい日本の野菜が消える日』(光文社新書)の発売、おめでとうございます。
久松達央(以下、久松):澤浦さん、お話しできて嬉しいです。澤浦さんも『農業で成功するために本当に大切なこと』(ダイヤモンド社)の発売、おめでとうございます。澤浦さんが書いてるな~っていうのが、すごく伝わってきました。
澤浦さんの魅力って、カリスマ経営者と呼ばれるようになった今でも、「農家のおやじ」を貫いているところだと思うんです。
たたき上げで副社長にまでなった、トヨタ自動車の河合満さんのようなタイプですよね。現場に徹することを、ずっと大事にしている。成功の秘訣も、きっとそこにあると思うんです。
澤浦:そうですね、アサヒビールのアドバイザーを5年間、務めさせてもらった経験が活きているのかもしれません。
アサヒビールの生え抜きで、「スーパードライ」を大ヒットさせた当時の社長、瀬戸雄三さんから、いろんなことを教わりました。瀬戸さんはよく、こんなことをおっしゃっていました。
「僕は、アサヒビールで『天皇』だなんて言われている。面と向かって正しいことを言ってくれる人が、社内には誰もいない。だから、アドバイザーのあなたには、ありのままのことを言ってもらいたい」
これだけの大企業のトップでありながら、まったく偉ぶるところがないんです。
久松:とても謙虚な方だったんですね。
澤浦:その後、社長に就任された泉谷直木さんも同じです。泉谷さんとは常務時代からのおつき合いですが、いつもこんなことをおっしゃっていました。
「僕は、役員室にいるのが好きじゃない。時間さえあれば工場に行って、そこで働いている人たちの話を聞くようにしている。すると、いろんなことがわかってくる」
こんなふうに、本当に優れた経営者というのは、偉そうにしないんです。だから、偉そうなことを言っている人を見ると、つい「この人、なんなんだろう」って思ってしまう。こうはなりたくないな、って。
年を重ねると「教えてくれる人」がいなくなる
澤浦:久松さんも超有名人なのに、誰に対しても偉ぶらないじゃないですか。
久松:いや、本当に偉くないですから(笑)。ただ、自分もそういうのが嫌で、大きな会社を辞めたというところはありますね。
澤浦さんと似ているなと思うのは、僕も会社を辞めて、小さな農業法人で修業させてもらったときに、「農家って、一生現場にいられるんだ。すごくいい仕事だな」って思ったんです。
今の自分と同じくらいの歳の社長と、一緒に働いていましたから。これが、現場のある仕事のいいところだと思っています。
澤浦:自分が今の会社をつくったのは、29歳のときでした。
20代のうちに創業するのは、けっこう重要だと思いますね。若いときにいろんな人に会って、いろんなことを教えてもらって、ときにはお叱りもいただく。そうしているうちに、いろんな知恵がつくんですよ。
でも悲しいことに、50歳をすぎると、教えてくれる人がいなくなるんです。
久松:今回の本にも書かれていましたね。ましてや、あの澤浦彰治に苦言を呈してくれる人はなかなかいないと思います。
澤浦:何人かいますけどね。みんな大事な友人です。
久松:「偉くならない努力」をしている人ですよね、澤浦さんって。
澤浦:だから、本の帯に「レジェンド」なんて書かれるのがいちばん嫌で(笑)。
久松:ふだんから強く意識していないと、できないことだと思います。
大事なのは「自分のことを信じきれるか」
久松:今回の本を読んで改めて思ったんですが、澤浦さんは「そもそも論」の人ですよね。「これが今、トレンドだと言われているけど、そもそもどうなの?」と、つねに常識を疑っている。トレンドとは違うことをずっとやってきた人。
澤浦:世の中のトレンドって、「今」ばかり見ているんですよ。「今、これが売れている」とか、「今、これが受けている」とか、そんなことばかりに注目している。
でも、自分が考えるトレンドは、「今、何が問題になっているのか、何で困っているのか」「それを改善していったら、こうなるんじゃないか」というように、未来を見ている。そこが、大きな違いだと思います。
だから、今売れているもの、今人気があるものにまったく興味がなくて。
久松:澤浦さん自身としては、当たり前のことをずっとやってきているという意識だと思うんですが、世の中や他人に惑わされないことは意外と難しい。
「自分のことを信じきれるかどうか」っていうのは、成功するうえですごく重要な要素だと思う。
これまでの2冊(『農業で利益を出し続ける7つのルール』『農業で成功する人 うまくいかない人』。いずれもダイヤモンド社)のときは、まだ仮説だったと思うんです。でも、今回の本で確信に変わっている。
僕なりの解釈ですが、まわりからさんざん反対されたけど、歯を食いしばって自分を貫いているっていうのが以前の2冊で、それが今となっては、歴史が証明しているというか。澤浦ファンとしては、読んでいて感慨深かったです。
澤浦:そう言ってもらえると、ありがたいですね。
たしかに、有機こんにゃくなんて、初めのうちは誰にも相手にされませんでした。早く言えば、アウトサイダーだった。
でも、人とのつながりを地道につくって、顧客を増やしていくうちに、ようやく久松さんが今回の本で提唱されている「農業のモジュール化」ができてきたのかなと。
久松:その歴史を知らないと、澤浦さんのことをメインストリームの大規模農業だって思う人もいるかもしれない。
でも、澤浦さんがやってきたことは、どちらかといえば「弱者の戦略」じゃないですか。
メインストリームではないことをやってきた結果、今、大きな成功をおさめていらっしゃる。すごいなと思うと同時に、他に同じような農家が見当たらないことは、今の日本の大きな課題であるとも思います。
*後編は5/21(水)公開予定です。
澤浦彰治(さわうら・しょうじ)
グリンリーフ株式会社代表取締役、株式会社野菜くらぶ代表取締役
1964年、群馬県昭和村生まれ。1983年群馬県立利根農林高等学校を卒業後、群馬県畜産試験場での研修を経て、実家にて就農。こんにゃく価格の暴落をきっかけにこんにゃくの製品加工に着手。92年、3人の仲間とともに有機農業グループ「昭和野菜くらぶ」を立ち上げ、有機栽培を本格的に開始する。94年、家業を農業生産法人化させる。96年、有限会社野菜くらぶを設立し、2002年に野菜くらぶを株式会社化した。2012年と2024年に『ガイアの夜明け』(テレビ東京)出演。2025年4月刊行の週刊ダイヤモンドでは「レジェンド農家ベスト20(4位)」「農家が選ぶカリスマ農家」として紹介される。著書に『小さく始めて農業で利益を出し続ける7つのルール』、『農業で成功する人 うまくいかない人』(ともにダイヤモンド社)がある。最新刊は『農業で成功するために本当に大切なこと』(ダイヤモンド社)。
久松達央(ひさまつ・たつおう)
(株)久松農園代表
1970年茨城県生まれ。1994年慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)を経て、1998年に農業に転身。年間100種類以上の野菜を自社で有機栽培し、卸売業者や小売店を経由せずに個人消費者や飲食店に直接販売するDtoC型農業を実践している。生産・販売プロセスの合理化と独自のブランディングで、経営資源に恵まれなくとも、補助金や大組織に頼らずに少数精鋭のチームが自分の足で立つ「小さくて強い農業」を標榜する。他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)、『農家はもっと減っていい~農業の「常識」はウソだらけ』(光文社新書)。最新刊は『おいしい日本の野菜が消える日』(光文社新書)。





