スタートアップのバイブルとして名高い『起業のファイナンス』シリーズの最新刊として、『起業のコーポレート業務』が発売されました。オフィスの探し方や社会保険への加入、PR、反社対応、M&A・IPO準備など、総務・経理・労務・法務とEXITに関する全てをカバーする「スタートアップの実務大全」とも言える1冊で、スタートアップ以外の企業のコーポレート部門の人にも大いに役立つ内容となっています。
この連載では、主に同書の「コラム」を公開していきます。第6回は、スタートアップ創業期に使える手法、「ファイナンスミックス」についてです。

混ざったお金Photo: Adobe Stock

「創業融資」と「エクイティ」をミックスする

 本来、創業期は事業リスクが高く、借入をしにくいのですが、日本においては、日本政策金融公庫の創業融資制度が利用できる可能性があります。

 創業融資とエクイティと組み合わせる(ミックスする)ことで、事業立ち上げに必要な資金を確保しつつ株式持分の希薄化を抑えることが可能です。

 パターン別にいくつか例を挙げますが、こちらで紹介する事例は、スタートアップに対する融資のコンサルティングを専門とする株式会社INQと共催した勉強会の内容を基本的に転記しています。実際の事例ではなく、あくまで想定のケースとして認識してください。

 パターン① バックグラウンドがしっかりしている起業家が創業したスタートアップ
創業者の年齢は30代中盤
・創業事業に関連の深い業界での勤務経験が10年以上
・個人の資産形成が一定以上なされており、自己資金の準備もある

 といった起業家の場合、創業直後に日本政策金融公庫からそれなりにまとまった金額(たとえば20百万円)の創業融資を受け、トラクションを出して決算を挟んだ後に、初めてエクイティでシードファイナンスを行うということが可能です。

ファイナンスミックス事例1

 ここで注目すべきは、シードファイナンスと同時期に「資本性ローン」と「協調融資」を実行している点です。

 日本政策金融公庫の資本性ローンは、

・融資期間が長く(5年超)、一括返済(融資期間中は金利の支払いのみ)
・金利が業績連動で、赤字の場合は金利が低い
・金融機関の債務者区分判定において自己資本とみなすことができる

 と、スタートアップにとっては嬉しいことだらけです。他の金融機関から同時に融資を引くか、VCなどから出資を受ける「協調融資」という形を取る必要があるのですが、チャレンジしてみる価値は大いにあります。

 また、創業融資から一定期間を経て返済実績を積んでいること、決算をまたぐことで融資審査の材料を増やしていることもポイントです。

 パターン② 20代前半の若手起業家が創業したスタートアップ
・創業者の年齢は20代前半
・創業事業に関連の深い業界での勤務経験はほぼない
・資産形成はなされておらず、自己資金が乏しい

 といった起業家の場合、最初にエクイティファイナンス(エンジェル or プレシードラウンド)を行うことによって信用が付けば、日本政策金融公庫から少額(たとえば5百万円)の、創業融資を引くことができるようになります。

 この創業融資の返済実績を積みつつ、シードファイナンス後にシリーズAで保証協会付き融資を引く、というシナリオです。

ファイナンスミックス事例2

 パターン③ 受託+プロダクト開発のスタートアップ
・創業者の年齢は30代前半
・創業事業に関連の深い業界での勤務経験がある
・個人の資産形成が一定以上なされており、自己資金がある
・将来のプロダクトの提供先から業務を受託したり、コンサルを提供するなどしつつ、顧客ペインを汲み取り、プロダクトを開発

 といった場合は受託による売上があるため、創業融資が出やすく(たとえば20百万円)、決算を挟み借換・追加融資を受けることが可能という想定になります。

 この間にプロダクト開発も進め、満を持して比較的大型のシードファイナンスを実施し、トラクションを出してシリーズAにつなげる、という流れで、ベンチャーデット・新株予約権付融資も活用しています。

ファイナンスミックス事例3

 これらの例ではすべて、日本政策金融公庫の創業融資から始まり、継続的に融資を活用して資金需要をカバーすることで、株式持分の希薄化を抑える効果があることがわかりますね。

 融資はエクイティファイナンスとは異なり、枠を徐々に拡大していく必要があるため(いきなり枠はドカンと大きくならない)、早期から取り組むことにより、事業が安定的に成長してきたフェーズで活用できる融資の金額感が違ってくる、というメリットもあります。筆者は、このことをファイナンスミックスの時間的複利効果と呼んでいます。

 また、事業規模が大きくなるにつれ、日本政策金融公庫の創業融資から「信用金庫→地方銀行→メガバンク」という風にメインの借入先を変更していくパターンはよく見かけます。