「とにかく、補聴器をもう一度試して下さい」と再びお願いされてしまったのです。

俳優や編集者の友人に
ヒヤリングの練習を依頼

 ここからが悪戦苦闘。とりあえず綜合病院に勤める知人の耳鼻科の先生を訪ね、何とか聴こえるようにして下さいと、耳の掃除が始まりました。

「どうですか、私の声が聴こえますか」と先生。音声は聴こえますが、言葉の意味までつかむにはもうひとつです。「では今日から終日、人と会わなくても耳を慣らすために補聴器は装着して、テレビの音声で練習して下さい。でないと、脳が聴く能力を放棄してしまいます」と言われてテレビの前で聴く練習を始めたのです。

 でも、やはり補聴器を通した音は機械を通した音声に変質されているので、あまり役に立たないことがわかりました。

 次の日は、知り合いのおそば屋に行って、補聴器をつけて客の話す声を聴く練習を始めましたが、雑音にしか聴こえません。とそこに俳優の小澤征悦さん夫妻がやってきました。

 僕は今ヒヤリングの練習をしているので何でも話し掛けてくれない?というと小澤さんは「今からボイストレーニングに行くんですよ」。じゃあ丁度いい、僕を相手にトレーニングしてくれないかね。と思ったのですが彼の声は太くて大きいので、補聴器なしでも聴こえそうだけれど、陛下とは声質が違うので、あまり役に立たないかも知れない。

 そこで他の人とトレーニングをと思って翌日、近所に住む元編集者にアトリエに来てもらったのです。するとそこへ、ヒヤリングの練習をしていることなど知らない「週刊新潮」のTさんがやってきました。2人共何でもいい、陛下になったつもりでゆっくり、やわらかい優しい声で話してくれないか、と言いました。

 しかし相手の声が悪いのか僕の耳が悪いのか、どっちにしても、2人はワーワー騒ぐだけで、まるでヒヤリングのトレーニングにはなりません。