「そうですかあ?」上皇陛下の意外なリアクションにヒヤッとした理由Photo:YOSHIKAZU TSUNO/gettyimages

「秩父宮殿下が2.26事件に関与した見解は間違いだと思っています」と話す著者に対して、上皇陛下は腑に落ちない表情を見せられた。昭和史研究の第一人者である故・半藤一利氏と共に、吹上御苑の御所に招かれた著者が、「ほかの宮家に対する天皇家の警戒感」を感じた陛下の言葉とは?本稿は、保阪正康『平成の天皇皇后両陛下大いに語る』(文藝春秋)の一部を抜粋・編集したものです。

陛下は悠仁さまと2人で
森を散歩して虫の種類を教えた

 御所は吹上御苑という巨大な森の中にある。

 御濠によって都心のビル街と隔絶された森には、天皇陛下のお住まいである御所のほかに、宮中祭祀が行われる宮中三殿や、上皇陛下の母良子皇太后のお住まいだった吹上大宮御所などが点在する。

 そういった皇室の建物も、巨大な森の中にあってはごく小さな存在だ。昼なお暗い森の中には、小高い丘や深い谷があり、見上げるほどの大木もあれば、室町時代に掘られた道灌濠と呼ばれる濠もある。周囲から隔離され生きのびた武蔵野の在来種や、なぜ存在するのかが不思議な、海辺や外来の生き物が豊かな生態系を形づくり、カワセミやオオタカ、タヌキ、ハクビシンといった都会には珍しい動物、ゲンジボタルやベニイトトンボ、カブトムシやクワガタといった昆虫が数多く棲息しているといわれる。

 2回目の懇談(編集部注/著者と後述の半藤氏は2013年から16年にかけて、現上皇、上皇后に御所にお招きいただき、数時間にわたる雑談を重ねた)となった2013年9月10日夜も、御所の応接室からは虫の音がよく聞こえた。

「ずいぶん虫が鳴いているんですね。ここは本当によく聞こえますね」

 半藤一利さん(編集部注/昭和史研究の第一人者であるジャーナリスト。2021年逝去)が、向かいのソファにお座りの天皇陛下と美智子さまに申し上げると、陛下は虫の音を聞き分けながら、その虫の名前をいくつか解説してくださった。

「この前、秋篠宮のところの悠仁が来たんですよ。この辺をいっしょに散歩しました」

 陛下は悠仁さまと2人だけで、虫が鳴く森の中を歩き、虫の種類などを教えたらしい。

 この年の春、悠仁さまはお茶の水女子大学附属小学校に入学され、9月6日に7歳になったばかりだった。

悠仁さまのことを「かわいいんですよ」と
陛下は繰り返しおっしゃった

 お誕生日に合わせた報道では、「皇居にも度々訪れ、バッタやチョウを入れた虫かごを両陛下に見せながら話をされた」(読売新聞2013年9月15日付朝刊)と近況を伝える新聞記事もあった。

「悠仁は虫に興味を持って、『これは何という虫?』とよく聞くんですよ。私はすべて教えました。子供っていうのはかわいいものですね。本当にかわいい」

 陛下はそうおっしゃった。

「夜に歩かれたのですか」と聞くと「そうですよ」とにこやかに答えられる。