天皇、皇后両陛下Photo:SANKEI

2023年、現代美術家・横尾忠則氏は、天皇皇后両陛下と懇談する機会を得た。しかし当時、横尾氏は深刻な難聴に悩まされており、「会話が成立するのか」という大きな不安を抱えていたという。補聴器を試し、人の声を聞き取る練習を重ねながら迎えた当日。極度の緊張のなかで始まった、忘れがたい時間を振り返る。※本稿は、現代美術家の横尾忠則『運命まかせ』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。

「陛下より先に話さないで」
難聴の横尾氏を困らせたお願い

 2023年の11月。

 思いも寄らなかったことですが、天皇、皇后両陛下とご面談することになったのです。

 僕以外にも何人かの人がひとりずつお話をすることになったのですが、そこで「困った」ことには、僕はひどい難聴で耳が聴こえないために会話が不十分になってしまうのです。

 それでどうしたものかと、文部科学省の係の方に前もって、僕の秘書が相談を持ちかけてくれたのです。

 すると、「難聴でも、なんとか補聴器を装着してでも陛下とお言葉を交していただきたいのです」。でも横尾の難聴は相当ひどく、世界で最高の補聴器でさえ、聴こえないのです。ですから、陛下のお言葉の前に、自己紹介的なお話を先にさせていただくということでは如何でしょうか。

「それは困ります、陛下より先にお話をされないで下さい。陛下のお言葉のみにお答えいただきご質問などもなさらないでいただきたいのです」。

 さあ困った。どうすればいいのでしょう。普段、仕事で話す時は相手にテレビ局などが利用しているワイヤレスピンマイクという器機を持ってもらって、僕はイヤホンを付けて話をするのですが、まさか、このマイクを陛下に持っていただくわけにはいきません。