このままでは数年でIBMは破綻、消滅するだろうという噂が現実味を帯び始めた頃、ガースナーが最終的にCEOに着任することになります。

 しかし、この人選に米国のメディアは大いに失望しました。というのも、ガースナーは当時、お菓子会社のナビスコのCEOを務めており、IT業界での経営実績がなかったからです。誰だって「あのIBM」の立て直しを任せるのであれば、IT業界の大物経営者を有力候補として考えるでしょう。それをよりによってお菓子会社の経営者とは……。

 結果、「IBMはついに正気を失い、ポテトチップとICチップの違いもわからなくなってしまったようだ」といった侮蔑的な記事が全米の経済誌をにぎわしたのです。

 ところがこのあと、嘲笑したメディアは、この「元お菓子屋の経営者」による見事なターンアラウンドを見せつけられることになります。

短期の目標しか掲げない
ガースナーに批判が殺到

 CEO就任の打診を受けたガースナーは、判断を留保し、「会社の状況を深く知るため」という理由で、手ずからIBMの過去数年の財務諸表を分析します。もともとマッキンゼーのコンサルタントとしてキャリアを積み上げたガースナーにとって、財務分析はお手のものだったのです。

 その分析結果は「一刻も早くキャッシュの流出を止めないとこの会社は破綻する」というほど、危機的なものでした。ガースナーは最終的に1993年4月1日に正式にIBMのCEOに就任しますが、この年、IBMは81億ドル(約1兆円)の純損失を計上します。会社を破綻から救うためには一刻の猶予もありません。超特急で再生プランをまとめたガースナーは、就任から数えて119日目にあたる7月29日に記者会見を行い、次の四つのイニシアチブを緊急措置として推し進めることを発表しました。

 その具体的な内容は、

1.世界中に保有している不動産の売却
2.3.5万人の人員削減
3.ノンコア事業の売却
4.コア事業の値上げ

 というものでした。

 この発表内容について、ある記者が「あなたが言っているのは単なるリストラ策に過ぎない。経営者としてIBM再生を託されているのであれば、未来のビジョンについて語るべきではないか」と食い下がったのです。