会場でプレゼンテーションを行う登壇者の後ろ姿写真はイメージです Photo:PIXTA

「優れたリーダーはビジョンを示す」。ビジネスの世界では半ば常識のように語られている。しかし、その“正論”が会社を危機に追い込むこともある。経営破綻寸前だったIBMに乗り込んだルイス・ガースナーは、「現時点のIBMにビジョンなど必要ない」と言い切った。なぜ彼はあえてビジョンを否定したのか。※本稿は、著作家の山口 周『コンテキスト・リーダーシップ「最高の上司」と「最悪の上司」は文脈で決まる』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。

瀕死のIBMが選んだ新CEOは
お菓子会社の元社長だった

 リーダーは、世界の動向、社会におけるテクノロジー、人口動態や価値観の変化などの要素の変動といった「世界や社会のコンテキスト」に応じて、リーダーシップをシフトすることも求められます。

 ここで「組織のコンテキストとリーダーシップ」という問題について考えるにあたって、ルイス・ガースナーによるIBMのターンアラウンド(企業再生)の事例を取り上げてみましょう。

 IBMは1990年代の初頭、深刻な経営危機に陥っていました。パソコンの価格性能比が急速に高まるというマクロ・コンテキストの影響で、IBMの看板商品だったメインフレームのコンピューターが売れなくなっていたのです。

 ハードウエア中心のビジネスモデルが限界を迎えていることは、誰の目にも明らかでしたが、縦割りの官僚主義が蔓延する巨大組織は時代の変化に適応できず、マスコミからは「まるで恐竜のようだ」と揶揄されていました。

 かつては「アメリカの宝」と呼ばれた瀕死の企業を救おうと、創業以来初の試みとして、社外から経営者を招くという異例の決断がなされ、数多くの候補に白羽の矢が立ちますが、特にIT業界の有力経営者たちは「あの会社だけは立て直せる自信がない」と次々に就任依頼を断りました。