ヤマト運輸のEV配送車Photo:SANKEI

新規事業やイノベーションは、「誰よりも早く始めた者が勝つ」と考えられがちだ。しかし実際には、時代が追いついていなかったために失敗した事業も少なくない。重要なのはスピードではなく、その事業が社会や技術、市場環境とかみ合う「タイミング」だ。ヤマト運輸の宅急便、東海道新幹線、そしてYouTubeやiPhone――。後発でありながら先行企業を追い抜いた成功例には共通点がある。成功する企業は何を見極め、いつ勝負に出るのか。※本稿は、著作家の山口 周『コンテキスト・リーダーシップ「最高の上司」と「最悪の上司」は文脈で決まる』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。

インフラ整備のタイミングで
宅急便を始めたヤマト運輸

 高速道路のインフラ整備のタイミングをうまく捉えて事業化に成功したのが、我が国のヤマト運輸です。

 ヤマト運輸の「宅急便」の成功は、単に企業努力やアイデアだけでは語りきれません。その背景には、1970年代の日本社会における構造的な変化、すなわち時代のコンテキストが大きく影響していました。ヤマト運輸が1976年に「宅急便」サービスを開始したというタイミングこそ、まさにその文脈が整った瞬間だったのです。

 まず、インフラの側面から見ると、1965年に名神高速道路が開通、続いて1967年に中央自動車道が部分開通、1969年には東名高速道路が開通。1975年時点で日本全国の高速道路延長距離は1000キロを超え、都市間の陸送が飛躍的に効率化しました。これにより、小口貨物を翌日配達で届けるというビジネスモデルに必要な物流インフラが、ようやく現実のものとなったのです。

 次に、消費者側の変化です。1970年代後半、日本は高度経済成長を経て成熟期に入り、1976年の平均世帯年収は約310万円(総務省「家計調査」)に達していました。いわゆる「一億総中流」の意識が社会に定着し、生活の中で「便利さ」や「時間の節約」といった価値が重視されるようになっていました。