Photo:NurPhoto/gettyimages
米OpenAIと米AnthropicによるサイバーAI関連技術とサービスの応酬が止まらない。AnthropicのMytosに関しては、国を挙げて対策を迫られるなど社会的な影響も出てきている。目まぐるしく動く両陣営の状況をどう読むべきか。AIを取り巻く企業やITベンダー、政府の攻防を描く新連載『AIバトルロイヤル』の本稿では、IPO(新規株式公開)を目前にしたOpenAIとAnthropicという二大AIジャイアントが、サイバーAIをてこに繰り広げる応酬を整理しつつ、日本や日本企業に与える影響を読み解く。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
OpenAIとAnthropicのサイバーAI応酬が続いた2カ月
日本と日本企業はどう対応すべきか
「隔離環境から脱出して、成功したら連絡しろ」――。米Anthropicの研究者は開発中のフロンティアAIモデルにこんな課題を与え、昼食に出掛けた。すると、外部とつながらないはずの環境からインターネットに到達したAIは、公園でサンドイッチを食べていた研究者の元にメールを送り、頼まれてもいないのに、自分の“脱出経路”の詳細を外部の公開サイトに書き込んでいたという。
4月、Anthropicは上記のフロンティアAIの発展形である「Claude Mythosプレビュー」と、それを使った共同防衛の枠組み「プロジェクト・グラスウイング」を発表した。さらに「Mythosはシステムの脆弱性を発見する能力が専門家以上に高く、危険なので一般公開しない」という異例の打ち出し方がなされたのだ。
この発表は衝撃を呼び、4月7日には米財務省と米連邦準備制度理事会(FRB)がシティグループ、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックスなどの大手金融機関CEO(最高経営責任者)を招聘。スコット・ベッセント米財務長官とジェローム・パウエルFRB議長の主導によってMythosのリスクについて協議が行われた。日本でも、内閣官房など14省庁が、Mythosを名指しで挙げた対策パッケージ「プロジェクト YATA-Shield」を公表した。
一気に世界に広がったMythos狂騒曲をけん制するように、AnthropicのライバルであるOpenAIも動いた。「GPT-5.5-Cyber」と、防御者向けのアクセス制度「Trusted Access for Cyber(TAC)」を投入し、拡販を開始したのだ。政府向けの「GTAC」を欧州や日本で提供する方針も打ち出した。5月には同社取締役で元米国家安全保障局(NSA)長官、元米サイバー軍司令官を歴任したポール・ナカソネ氏らが来日し、日本政府や産業界に対してTACとGPT-5.5 -Cyberの意義を説明した。
その発表翌日にはAnthropicがグラスウイングの初期成果を発表。5月末には日本の三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクが二つのモデルへの参加を決めた。その後も、AnthropicとOpenAIはあたかもテニスのラリーのように、自らのIPO前に「サイバーAI戦略」の応酬を続けている。
生成AIのモデルを巡る覇権争いは、サイバーAIの覇権争いにいつしか転換された。目まぐるしく動く状況に、国と企業は好む好まざるにかかわらず巻き込まれていくことが必至だ。
そもそも、両社のモデルは何がどう違うのか、そしてメガAI企業のサイバーAI競争に、日本と日本企業はどのように対応していくべきなのか。例えば、メガバンクは強力なツールを手に入れることができても地方銀行はなすすべがないというような格差が生まれる可能性が強い。さらには、せっかく防御手段を手に入れても、数カ月後にはより強固な攻撃手段に晒されることも。何より、日本企業は一部の巨大テック企業に強く依存するしかないのだろうか。その場合の最適解はなんなのだろうか。難解で日々変わる状況を、次ページから分かりやすく解説していこう。








