「一晩寝れば大丈夫」と思っていた疲れが、なかなか抜けない。そんな人は、休み方そのものを見直したほうがいいかもしれない。体力のある人ほど“がんばり方”だけでなく“休み方”も戦略的に組み立てている。1万人以上の患者を診てきた医師が、医学的根拠に基づいて執筆した『体力がすべて』。いまある体力を、どのように伸ばし、配分するのかを説いた本書から、一部を抜粋・編集し、「やりかけの仕事」と上手く向き合うヒントを解説する。

【大事な日の前に】疲れを残しにくくする、1週間の体力設計Photo: Adobe Stock

体力の回復にも、戦略を

 回復は「一晩寝ればすべて完了する」といった単純なものではない。疲労の解消も、負荷に対する体の適応も、時間の経過とともに段階を追って進むプロセスである。

 私たちの体の中では、その日の疲れのように素早く変動する「短く速い波」と、基礎体力や身体機能のように数週間から数カ月かけて変化する「長く緩やかな波」が重なり合い、互いに影響し合っている。

 したがって回復を進めるには、時間のスケールに応じて、次の3つのリズムを意識しながら組み合わせることが重要だ。

日中に短く立て直す:仕事の合間に小休止やストレッチなどを行う

夜に深く休ませる:回復の中心となる質の高い睡眠を取る

週の流れでゆっくり戻す:負荷の強弱と休息日をあらかじめ配分し、疲労が残りにくい週のリズムをつくる

 これら3つのリズムがそろうことで、回復は単なるその場しのぎの点ではなく、心身を健やかに保つための連続した流れとして機能するようになる。

 ここでは、「週の流れでゆっくりもどす」回復のコツを紹介しよう。

週の流れでゆっくりと戻す

 一晩寝ても抜けきらないような、数日間にわたる蓄積疲労に対処するには、その日だけでなく、その週をどう過ごすかという長期的な視点での調整が必要になる。

 仕事も運動も、行き当たりばったりで取り組むのではなく、あらかじめ負荷と休息の強弱にリズムをつくっておく。そうすることで、疲労と回復の歯車がうまく噛み合い始める。そのためのシンプルな方法が、1週間を次の3つの役割に分けて捉えることだ。

負荷を上げる日:重要な案件や、高い集中力・エネルギーを要する仕事、あるいは強度の高いトレーニングを集約する

負荷を控えめにする日:事務処理やルーティンワークなど、比較的負荷の低いタスクを中心にする。全開にはせず、かといって止めもしない、中強度の安定を保つ

休む日:仕事から意識的に離れ、十分な睡眠、軽い散歩、趣味などに時間をあてる。体と頭を回復させることを最優先する

 もう1つの戦略的な工夫として、大事な本番の前に負荷を段階的に落としておくという方法がある。スポーツの世界では、こうした本番前の負荷調整をテーパリングと呼ぶ。

 競技やレベルにもよるが、大会の約2週間前からトレーニング量を普段よりおおよそ4~6割減らし、強度はある程度保ちながら疲労を抜いていく方法が、パフォーマンス向上に役立つことが報告されている(*1)。

 この原理は、ビジネスにおけるプレゼンテーションや重要な打ち合わせ、あるいは試験といった場面にも応用できる。ただし、思考や判断を要する複雑な仕事ではスポーツほど長期のテーパリングは必須というわけではなく、本番直前の数日から当日にかけて、負荷をどう調整するかが結果に影響しうる(*2)。

調整期間の設定:本番の数日~1週間前を調整期間と定め、意識的に仕事量やトレーニング量を軽くする。睡眠不足やマルチタスク、新規の重い案件は、この期間に増やさない。その一方で、想定問答や過去問など、本番形式のポイント確認(=思い出す練習)は残す

タスクのコントロール:予定を詰め込みすぎず、判断負荷の高いタスクを本番直前に残さないようにスケジューリングする

 あわせて、調整期間中は睡眠時間をいつもより30~90分ほど多めに確保し、少し長く眠ることを意識したい。こうした調整をあらかじめ取り入れるだけでも、強い疲れを残したまま本番に突入するリスクを下げやすい。

 実際、重要な局面の前に意識的に睡眠時間を増やしておくことで、当日のパフォーマンスの低下を抑えられる可能性があるという報告もある(*3)。

 ここで挙げた数字や期間は、誰にとっても最適な絶対ルールではない。仕事の自由度や家庭の事情、体力・体調によって、現実的な選択肢は変わる。

 重要なのは、日中・夜・週という3つの時間スケールで、負荷と回復のバランスを意識的に取ることだ。自身の反応を冷静に観察しながら、この枠組みの中で微調整を重ねていく。そのプロセスこそが、回復の質と日々のコンディションの安定を支える土台となる。

専門家への相談を検討すべきサイン

 こうした工夫を重ねてもなお、「強い疲労感が数週間以上続く」「息切れやめまい、気分の落ち込みが目立つ」といった症状がある場合には、単なるオーバーワークの範囲を超えている可能性がある。

 睡眠障害や内科的・精神的な疾患が背景にある可能性があるため、スケジュール調整だけで解決しようとせず、速やかに医師に相談してほしい。

(本稿は『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から一部抜粋・編集したものです。)

[注釈]
1. Bosquet L, Montpetit J, Arvisais D, Mujika I. Effects of tapering on performance: a meta-analysis. Med Sci Sports Exerc. 2007 Aug;39(8):1358-65.
2. Sievertsen HH, Gino F, Piovesan M. Cognitive fatigue influences students’ performance on standardized tests. Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Mar 8;113(10):2621-4.
3. Cunha LA, Costa JA, Marques EA, Brito J, Lastella M, Figueiredo P. The impact of sleep interventions on athletic performance: a systematic review. Sports Med Open. 2023 Jul 18;9(1):58.