『AIバブル後の投資戦略』を上梓したブルーモ証券CEOの中村仁氏は、「AIバブル最大のリスクは、OpenAIの破綻」と主張します。では、OpenAIへの信用が揺らぐとき、日本にはどのような影響が出るのでしょうか?

日本へのアラートPhoto: Adobe Stock

AIの設備産業の多くは東アジアにある

 OpenAIを中心としたAI相場の信用が揺らぐとき、その衝撃は米国のテクノロジー企業だけで完結しない。すでに見たように、AIインフラ投資はデータセンター、GPU、電力、クラウド契約、金融スキームを巻き込んで巨大化している。だが、その「実物部分」を支えているのは、米国企業だけではない。AIモデルは画面上ではソフトウェアに見えるが、背後には半導体工場、メモリ工場、検査装置、素材、光ファイバー、パッケージ基板、冷却設備がある。AIとは、デジタル産業であると同時に、きわめて重い設備産業でもある。

 この設備産業の多くは東アジアに置かれている。SIA(米国半導体工業会)とBCG(ボストンコンサルティンググループ)は、世界の半導体製造能力の約75%が中国および東アジアに集中し、10ナノメートル未満の最先端半導体製造能力は台湾が92%、韓国が8%を占めると指摘している。つまり、AIバブルの価格形成は米国市場で起きていても、その生産能力、設備投資、雇用、地域経済のかなりの部分は台湾、韓国、日本に埋め込まれている。

 OpenAIの信用不安は、AI需要の伸び率に疑問を生じさせ、GPU、HBM、NAND、先端ロジック、製造装置、検査装置、光通信部品への発注見通しを一気に変えうる。東アジアにとってのリスクは、AIが消えることではない。AIに対して積み上がった「成長率の前提」が下方修正されることなのである。

日本株に組み込まれたAI・半導体リスク

 日本への影響は、まず株式市場に表れる。日本株は、自動車から銀行、商社、内需企業まで幅広い産業から成るように見える。しかし日経平均株価に限れば、その実態はかなりAI・半導体寄りである。2026年5月8日時点の日経平均では、アドバンテストの構成比率が11.50%、東京エレクトロンが8.41%であり、この半導体関連2社だけで指数全体の19.91%、つまりほぼ20%を占めている。さらにソフトバンクグループも7.87%を占め、セクター別ではテクノロジーが55.34%に達する。

 日経平均は、もはや単なる「日本経済全体の平均」というより、AI・半導体サプライチェーンへの感応度が非常に高い指数になっている。したがって、米国でOpenAIや生成AI企業への信用が揺らいだ場合、それは翌日の東京市場で半導体関連株安として表れやすい。日経平均連動の投資信託やETFを持つ個人投資家、企業年金、NISA口座も、この経路を通じてAI相場の調整を受ける。

 この偏りは、上昇局面では強みになる。AI向け半導体投資が拡大すれば、アドバンテストの検査装置、東京エレクトロンの半導体製造装置、フジクラの光ファイバー、信越化学工業やSUMCOのシリコンウエハー、JSRや東京応化工業のフォトレジスト、イビデンや新光電気工業のパッケージ基板、ディスコの切断・研削装置、SCREENホールディングスの洗浄装置、レーザーテックのマスク検査装置などに需要が波及する。これらの企業はAIサービスを直接提供しているわけではない。しかし、AIモデルを動かすための物理的インフラを支える不可欠な企業群である。

 だが、ここにこそ危険がある。AIブームが日本企業に届く経路の多くは、設備投資を通じた経路である。設備投資は、増えるときには一気に増えるが、止まるときにも一気に止まる。半導体メーカーがAIチップ需要の伸びを慎重に見れば、装置発注は延期される。クラウド企業がデータセンター建設を遅らせれば、光ファイバー、サーバー基板、検査装置、材料の需要も遅れる。フジクラのような通信インフラ企業、キオクシアのようなNANDフラッシュメモリ企業も、AIデータセンターやストレージ需要の鈍化と無縁ではない。日本企業の競争力が失われるわけではないが、高すぎた期待が修正されれば、強い企業の株価でも大きく下がる。

 さらに、影響は東京市場だけにとどまらない。熊本ではTSMC子会社JASMを中心に半導体集積が進み、北海道・千歳ではラピダスが先端半導体の国産化を目指している。岩手にはキオクシアのNAND関連投資があり、三重や広島にも半導体関連の集積がある。AIブームは、株価だけでなく、地域の雇用、土地価格、住宅需要、物流、人材採用、自治体財政にも入り込み始めている。世界的なAI投資が急減すれば、工場がただちに閉鎖されるわけではないとしても、追加投資、周辺企業の進出、人材採用、地価、賃金には調整圧力がかかる。AIバブルは、東京の証券市場だけの問題ではない。地方経済の成長戦略にも入り込んでいるのである。