「大変な時期だけど、みんなで頑張ろう」。元気のない職場の空気を変えようと、こんな言葉を明るく呼びかけたことのあるリーダーはたくさんいらっしゃるはずです。だけど、たいていの場合、職場は白けたような雰囲気になってしまうのがオチです。「よかれ」と思った声がけなのに、なぜそうなってしまうのか? この記事では、『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』の著者・櫻本真理さんに、メンバーたちの深層心理を踏まえながら、「踏ん張ってほしいとき」「頑張ってほしいとき」の声がけの仕方について教えていただきました。

部下を「元気づける」ときに言ってはならない言葉・ワースト1Photo: Adobe Stock 写真はイメージです

良かれと思ってかけがちな言葉とは

 ある製造業のマネジャーから、こんな相談を受けたことがあります。

「最近、メンバーの元気がないんです。だから朝会で『大変な時期だけど、みんなで頑張ろう』と声をかけました。そうしたら、かえって空気が重くなった気がして……。何かまずいことを言ってしまったんでしょうか」

 実は、これは非常によくあるすれ違いです。そして、リーダーの「良かれと思って」がチームを消耗させる典型例でもあります。

 結論から言えば、「頑張れ」という言葉は、相手の心理的リソースの残量を確認しないまま、さらに差し出すことを求める言葉だからです。

「頑張れ」は“督促状”のように部下を消耗させる

 心理的リソースとは、「面倒くさいけど、やるぞ」と自分を奮い立たせるときに使われる、心のエネルギーのことです。私たちは仕事のタスクそのものだけでなく、気が進まない依頼を引き受けるとき、不安を抑えて発言するとき、不機嫌な相手に気を使うとき――そのたびに、この心理的リソースを少しずつ消費しています。

 リソースが十分に残っているメンバーにとって、「頑張れ」は「期待されているのだから頑張ろう」と、心理的リソースを回復させる効果を持つこともあります。ところが、残高が少なくなっているメンバーにとって、同じ言葉はまったく違う意味を持ちます。

「まだ足りない、もっと成果を出せ」という“督促状”のような意味合いを持つのです。

 本人は既に心理的リソースが枯渇しかけている。それなのに、その消費は上司から見えていない。見えていないどころか、「もっと頑張れる」と見積もられている。しかも、そう言われたところで具体的に何を頑張ればいいのかわからないから「何を頑張ればいいのだろう」と、さらなる心理的リソースの消費が必要になる。こう感じられると、部下の自己効力感は低下し、さらに消耗するサイクルに入ってしまうのです。

励ましの前に必要なのは「残高確認」

 では、「頑張れ」という代わりにリーダーはどうすればよいのでしょうか。

 ポイントは、励ます前に、相手の心理的リソースの「残高」を確認することです。といっても、難しいことではありません。たとえば、次のような一言から始めてみてください。

・「最近、どのあたりにいちばんエネルギーを使ってる?」

・「いまの仕事で、地味にしんどいことってある?」

・「先週と比べて、余裕は増えた? 減った?」

 これらの質問に共通するのは、成果やタスクの進捗ではなく、「エネルギーの使いどころ」を聞いている点です。タスクの進捗確認は「あといくら消費すべきか」を聞く質問ですが、エネルギーの質問は「いまどれくらい残っているか」を聞く質問です。この違いを、部下は敏感に感じ取っています。

 不思議なことに、人は残高を確認されただけでも、少し回復することができます。「自分に何が起こっているかが見えている」という感覚そのもの、そして「自分の状態を気にかけてもらっている」という認識が、心理的リソースを回復させてくれるからです。

それでも「頑張れ」と言いたいときは

 もちろん、どうしても踏ん張ってほしい局面はあります。そのときは、3つの条件をセットにしてください。

1.期限を区切る――「この2週間だけ」とゴールを見せる

2.理由を共有する――なぜいま頑張る必要があるのか、文脈を渡す

3.回復を約束する――乗り越えたあ後の休息・評価・感謝を先に示す

「頑張れ」が単独で飛んでくるのと、「ここまでの踏ん張りどころだと私は考えている。終わったら必ず休んでもらう」という設計つきで届くのとでは、同じ心理的リソースの消費であっても消耗度がまったく違います。前者は終わりなき消耗を予感させ、後者は明確なゴールの認識と達成意欲につながるからです。

 チームの活力は、メンバーの心理的リソースの収支で決まります。さらなる消耗につながる、表面的な励ましの言葉をかける前に、まず残高と使い道を明らかにする。そうすることで、リーダーの声がけも、消耗ではなく回復に繋げることができるようになるのです。

(心理的リソースについては、『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』で詳しく解説されています)

櫻本真理(さくらもと・まり)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。