「メンバーの心理的リソースを大切にしよう」と言うと、多くのリーダーは「それでなくても忙しいのに、そんなことまでやってられない」といった反応をします。たしかに、リーダーは多忙です。しかし、多くの職場を観察すると、意外な実態が見えてきます。心理的リソースを大切にしていないからこそ、チーム内にさまざまな問題が発生し、それを処理するためにリーダーが莫大な労力を費やしているケースが非常に多いのです。この記事では、『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』の著者・櫻本真理さんが、「心理的リソースを大切にしないからこそ、リーダーが疲れ果てる」というメカニズムを明らかにします。
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多忙なリーダーに「心理的リソース」に配慮する余裕はない!?
「メンバーの心理的リソース? そんなことまで気にしていたら、リーダーの負荷が増えるだけではないか」
「リーダーに、メンバーの心理的リソースまで配慮する余裕はない、もっと優先させるべきことがある」
チームにおける心理的リソース・マネジメントの必要性についてお話しすると、一定の確率でこうした反応をいただきます(心理的リソースとは、「面倒くさいことでもやるぞ!」と奮起する心のエネルギーのこと)。
リーダーはとにかく多忙です。だから、リーダー自身やメンバー一人ひとりの心理的リソースの状態に気を配り、コンディションを整える――その重要性は理解しつつも、「そこまで手が回らない」「現実的ではない」と感じるのは、多くのリーダーにとって自然なことかもしれません。
しかし、この見方には重要な視点が抜けています。それは、「心理的リソースを管理しないことによって発生する負荷」です。
忙しくて「見ないふり」を選択したリーダーの話
あるIT企業の開発チームでの話です。リリース直前にもかかわらず、バグ修正が思うように進まず、進捗は大きく遅れていました。リーダーは毎日のように進捗確認のミーティングを行い、「なぜ終わらないのか」「優先順位は理解しているのか」と問い詰めていました。
しかし、状況は改善しません。
それどころか、ピリピリした雰囲気の会議で発言するメンバーは減り、報告は表面的になり、問題の発見も遅れるようになっていきました。チーム内の空気は重くなり、ちょっとした指摘にも過剰に反応するような状態になっていきます。
結果として、問題はさらに深刻化し、リリースは延期。リーダー自身も連日の火消し対応に追われ、疲弊していきました。
後から振り返れば、原因は明らかです。
リーダーの不機嫌な態度や締め切りへのプレッシャーから、メンバーの心理的リソースはすでに枯渇していたのです。しかしリーダーはそれに目を向けず、「今は仕方ない」とばかりに「やり切らせること」に集中し続けていました。
そこで、メンバーの心理的リソースが枯渇していることに意識を向けて「頑張ってくれてありがとう」「もう少しだから一緒に頑張ろう」などと、ちょっとした言葉がけを意識するだけでも、メンバーの心理的リソースは満たされ、もう少しだけ頑張る力が生まれていたかもしれません。あるいは、「こちらの優先順位をあげよう」と意思決定を支援するだけでも、メンバーの消耗は防げていたかもしれないのです。
見えにくい“放置コスト”
心理的リソースとは、思考・判断・衝動制御や集中力といった、パフォーマンスの土台となる内面的なエネルギーを指します。このリソースが枯渇した状態では、人は本来の力を発揮できません。
そして厄介なのは、この低下が一見すると「やる気の問題」や「能力不足」に見えてしまう点です。
・会議で発言が減る
・アウトプットの質が落ちる
・意思決定が遅くなる
・チーム内の摩擦が増える
こうした兆候に対して、リーダーが心理的リソースの視点を持たない場合、「もっと頑張ってほしい」「なぜできないのか」といった対応になりがちです。その結果、さらにメンバーの心理的リソースが削られるという悪循環が生まれます。
この状態が続くと、最終的に負荷が集中するのはリーダー自身です。成果が出ない、進捗が遅れる、問題が頻発する――そのたびに火消し対応に追われ、追加のコミュニケーションや調整が発生します。つまり、メンバーの心理的リソースが充実していれば背負う必要のなかった「大きな負荷」が発生しているのです。
逆に言えば、チームの成果が生まれずにリーダーに負荷がかかっているということ自体が、心理的リソースへの意識が足りていない結果かもしれないのです。



