「職場で居場所がなくなる人」がつい口にしてしまうひとこと〈風、薫る第65回〉

ツヤ「解雇となりました」「え」

 りんとシマケン、直美と小川。ちょっといい雰囲気のエピソードが並行して描かれたあと、ツヤが大変なことに。

「解雇となりました」
「え」

 ツヤが、患者に薬を投与し忘れて発熱させてしまった。

「すいません、私、すいません」と涙目のツヤ。

 ツヤは近ごろぼんやりして聞き違えることがあると、他の医者からも聞いていると今井(古川雄大)に言われ、「すみません。取締である私の指導力不足です」とりんは平謝り。

 指導力というよりは、やっぱり無理やり休ませたほうがよかった。ツヤの疲労や不安に気づいていたのに……と大いに責任を感じ、勤務時間を調整して二度と同じことが起こらないようにするので、報告しないでほしいと頼むが、そうもいかず。

 別日、院長(筒井道隆)は「結論から言うと、三浦さんは解雇と決定しました」と冷たい。

「彼女、決して力量がないわけじゃないんです」
「勉強を続ければ、必ずいい看護婦になります」

 りんが考え直してくれるように院長に頼む。

 院長「率直に言うと、うちの病院では、看病婦は減らしていく方針です。そもそも、君たち、看護婦が生まれたことで、こうなるのはわかっていたことじゃありませんか。患者のためには、新しい知識を持ったトレインドナースの方がいい。もちろん今後も、看病婦から看護婦になる道が開いていくつもりです」

 直美「それは形だけじゃないですか。できるわけのない条件をつけて(中略)貧しい人が看病婦になってまっとうに生きていこうとするのをどうしたら助けられるんですか」と問う直美に院長はあくまで淡々としている。

「大家さん、あなたの言う看病婦の問題の根底にあるのは貧困です。それは社会の仕組みを変えるしかない。大学病院の仕事ではありません。あなた方は、帝都医大病院の看護婦取締としてふさわしい仕事をしてください。期待しています」

 そう、やっぱり問題の根底には社会の貧困問題があるのだ。

 土居ヒデ(池田朱那)は「一ノ瀬先生も間違えたんじゃないですか? ツヤさんのこと助けられたの先生だけだったのに。間違いに互いに気付けるようにって言ってたのに」と大きな目を見開きながら指摘する。

 ぐうの音も出ないりん。そう、喜代に言われたにもかかわらず、ツヤのフォローができていなかった。

 だがツヤはりんを責めることはない。院長を悪者にすることもない。全部、自分で引き受けて、病院を辞めても独学で勉強を続けると言う。

「だって一ノ瀬さんたちより長くここで働いてきたんですから」

 キャリアは関係ない。ミスはミスだ。でもこの時点のツヤにとって、時間の長さだけが周囲に対する盾だった。組織の変化や自身の失敗によって居場所を失いそうになったとき、人はつい、「自分は長くやってきた」「経験なら負けない」と口にしてしまう。

 ツヤの「一ノ瀬さんたちより長くここで働いてきたんですから」は悲しい捨てセリフだ。この言葉には、長年現場を支えてきた者としての誇りもにじむ。

 看病婦のせいいっぱいの矜持。まさに一寸の虫にも五分の魂だ。長い経験によって難しい臓器の漢字は覚えていたように、包帯を手際良く巻けるように、実務力はりんたちに負けてはいない、はずだった。

 りんとツヤのやりとりをやりきれない顔をしてヒデが見ている。

 ツヤはりんからバーンズからもらった看護の本を託された。いったん退場したあとゆくゆくは立派な看護婦になって戻ってくるだろうか。

 このようにりんたちのまわりは人がどんどん退場していく。最後に残るのはりんと直美のバディか。

「職場で居場所がなくなる人」がつい口にしてしまうひとこと〈風、薫る第65回〉