The Legend Interview不朽
「週刊ダイヤモンド]1984年2月18日号に掲載された、美津濃(現ミズノ)社長、水野健次郎(1913年10月7日~1999年4月15日)のインタビューである。創業者・水野利八の後を継いだ2代目で、同社を世界有数のスポーツ用品メーカーに育て上げた人物だ。当時の水野が、スポーツ産業をどのような思想で捉えていたのかを知る上で興味深い内容となっている。

 水野は典型的な商人型経営者ではなく、理学部化学科出身の研究者肌の人物だった。大阪帝国大学理学部で炭素繊維の研究に携わった経験を持ち、美津濃入社後にその知識がカーボン製ゴルフクラブやテニスラケット開発への着眼につながったと語っている。スポーツ用品を単なる消費財ではなく、物理学や化学、心理学など多様な学問の成果を結集した「学際的な合成物(composite)」と捉えていた点は極めて特徴的である。

 また、創業者から事業を受け継いだ2代目ならではの発言も興味深い。父・利八がスポーツ産業を「聖業」と呼んだ理念を継承しつつ、水野はそれを現代的に再解釈する。スポーツは教育や健康だけでなく、人間の自由な精神を発揚する場であり、平和や友情に貢献する文化活動だというのである。そのため「もうけるのはあくまで手段」であり、利益そのものを目的化してはならないと断言する。この考えは、短期的な利益を追う企業への痛烈な批判となっている。

 さらに注目したいのは、「スポートロジー(スポーツ学)」という構想だ。水野はスポーツを医学や体育学の一分野としてではなく、自然科学・社会科学・人文科学を統合した新しい学問領域として捉えようとした。現在ではスポーツマネジメントやスポーツ文化論、スポーツビジネス研究などが広く定着しているが、その萌芽を40年近く前にすでに構想していたことになる。

 創業者の理念を受け継ぎながら、理系経営者ならではの知的好奇心と学際的視野によって、単なる製造業ではなく「スポーツ文化の担い手」であろうとした様子が、言葉の端々からうかがえる記事である。(敬称略)
(ダイヤモンド編集部論説委員 深澤 献)

スポーツ用品は学際産業
非常に広い関連分野を持つ

――スポーツ産業の特色は何でしょうか。

 それは、いろいろとありますが、まず範囲が非常に広いことです。関連する分野が広く、それこそ触らないところはないでしょう。エコロジー(生態学)とか建築などにまで関係あります。体育館やスポーツ施設ですね。

「週刊ダイヤモンド」1984年2月18日号「週刊ダイヤモンド」1984年2月18日号

――そうすると、学際的にならざるを得ない。

 そうです。一つの例を挙げてみますと、美津濃はこんな小さな会社ですが、顧問弁護士が6人もおります。そして、みんな専門が違います。ある人は刑法――ほとんどご用はないですけれども、商法、それから民法にもいろいろありますね。さらに国際契約の問題、工業所有権といった具合に、全部弁護士さんが違います。そして、それらの弁護士さんたちがinterdisciplinary(学際)に対処していただくケースが少なくない。

――スポーツ用品も同じですか。

 そうです。スポーツ用品は、ほんとうに学際的なスタディ、リサーチ、そしてプランのcomposite(合成物)だと思います。そこで美津濃には、いま多くの技術顧問がいらっしゃいます。皆さん専門が違い、皆さん学位をお持ちです。

 その方々のお名前を申し上げますと、残念ながら故人になられた仁田勇先生(分子構造化学・1966年に文化勲章受章・学士院会員)。私の恩師でもあります。そして篠田軍治先生(応用物理学)、関厚二先生(高分子物理学)、湯川泰秀先生(有機化学)、桐山良一先生(結晶学)、神澤得之助先生(有機高分子化学)、杉原方先生(心理学)、三戸左内先生(電子工学)、大庭成一先生(高分子学)、角戸正夫先生(X線結晶学)、関集三先生(物理化学、熱学)、津和秀夫先生(精密加工、超精密加工)、鈴木達朗先生(応用光学)といった方々です。

 この顔触れから見ても、スポーツ用品の関わる範囲の広さがご理解願えると思います。