将来的に5人に1人がなると言われている「認知症」。じつは意外な方法によって、そのリスクを下げられることがわかった。たとえば「寝るときの姿勢」だ。人間の脳は寝ている間に脳のゴミを掃除するが、その効率が高まる「体の向き」がある。そう指摘するのが、オックスフォード大学の元研究員であり、現在は医師としても活躍する脳と糖の専門家である下村健寿氏だ。著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(ダイヤモンド社)が話題の下村氏から特別に寄稿いただいた内容を紹介しよう。
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脳の「夜間自動洗浄システム」の正体
朝起きたとき、どうにも頭がスッキリしない、最近物忘れが増えたような気がする……。そんな悩みを抱えてはいないだろうか。
実は私たちの脳は、寝ている間に「ある驚くべき自動洗浄システム」を稼働させている。
このシステムが正常に働くかどうかが、将来の認知症リスクを大きく左右することが、近年の研究で分かってきた。
人間の身体には、老廃物を回収して排出する「リンパ系」というネットワークが張り巡らされている。しかし、驚くべきことに、頭蓋骨に守られた「脳」の中にはこのリンパ管が存在しない。
では、脳はどのようにして日中に溜まった老廃物――アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβなどの「脳のゴミ」を掃除しているのだろうか。
その答えが、近年発見された「グリンパティックシステム」と呼ばれる脳独自の洗浄機構だ。
深い眠りについている間、脳細胞はわずかに縮み、その隙間に「脳脊髄液」と呼ばれる透明な液体が流れ込む。この液体が、脳内の老廃物を一気に洗い流してくれる。
まさに、夜間にだけ稼働する、「脳内の全自動洗濯機」と言える。
最も脳の掃除効率が良いのは「横向き寝」
この脳の洗濯機の効率が、実は「寝る姿勢」によって劇的に変わることが、最新の脳科学と睡眠研究によって明らかになってきた。
最新の三次元画像解析や生理学的測定を用いた研究によると、仰向けやうつ伏せに比べ、横向き(側臥位)で寝る方が、脳内老廃物の排出クリアランス効率が最も高い可能性が示唆されている。
なぜ「横向き」が良いのだろうか。理由は主に3つある。
・ 解剖学的な血管の配置
・ 重力による頭部への負荷分散
・ 静脈への血液の戻りやすさと頭蓋内圧のバランス
これらが横向き寝の状態で最も最適化され、脳脊髄液がスムーズに循環しやすくなるためだと考えられている。
もし「寝相」を意識できるなら、横向きを心がけることが、脳のゴミ出しを助けるファーストステップになる。
「運動習慣」が、脳の洗浄機能を促進する
しかし、ただ横を向いて寝れば良いというわけではない。脳の洗濯機を力強く回すには、「深い眠り」の時間が十分に確保されている必要がある。
ここで、現代人が見落としがちな「生活習慣」について、臨床の現場から注意が呼びかけられている。
脳の洗濯機を強力に後押ししてくれるのが「運動習慣」だ。運動そのものが、深い睡眠であるノンレム睡眠の時間を引き伸ばし、さらに脳の血管の自律的な拍動(自律運動)を安定させる。
これにより、睡眠中の洗浄システムの間接的な稼働を大きく促進することが証明されている。
しかし、「糖毒脳」になるとすべては無駄になる
「よし、今日から横向きで寝て、運動を始めよう!」と思った方も多いだろう。非常に素晴らしい心がけだが、実は、これらすべての努力を一瞬で無に帰す「最悪の支配者」がいる。
それが、現代人の食生活に潜む「糖」だ。
どれほど理想的な姿勢で寝て、運動をして深い睡眠を確保しても、日中にチョコレートやスナック菓子をつまみ、炭水化物に偏った食事をして「高血糖」の状態が続いていると、脳の掃除は正常に機能しなくなってしまう。
その驚くべきメカニズムについては、拙著『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』で詳細にお伝えした。
一部を引用すると、こうだ。
じつはアルツハイマー病は「第3の糖尿病」とも呼ばれています。糖尿病もアルツハイマー病も、どちらも「糖の過剰摂取によるインスリン分泌の異常」によって起こるからです。(中略)「インスリン抵抗性」が爆発のトリガーとなるのです。
――『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』より
冴えわたる頭脳を一生維持するために
「横向き寝(側臥位)」を心がけることも、日頃の運動も、非常に有効な脳のケアだ。
しかし、それらはすべて「脳が糖に毒されていないこと」が大前提としてあって初めて、本来の驚異的な効果を発揮する。
土台となる「糖代謝の仕組み」が狂っていれば、どんな快眠グッズも、どんなサプリメントも、壊れたバケツに水を注ぐようなものだ。
日々の「食事の選択」という小さな意思決定が、数十年後、あなたの脳の未来を大きく変えることになる。
大切な家族やあなた自身の明晰な未来を守るために、まずは「糖が脳に与える影響」を正しく知り、脳を守る「最強の知識」を手に入れてみてはいかがだろうか。
(本稿は、『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』著者の下村健寿氏による書き下ろし記事です)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。








