将来的に5人に1人がなると言われている「認知症」。運や遺伝によってなると考える人も多いが、じつは意外な要因によって、そのリスクが高まることがわかった。
それが「糖」による影響だ。そう指摘するのが、オックスフォード大学の研究員として世界的難病の治療法の発見に貢献し、現在は医師としても活躍する脳と糖の専門家である下村健寿氏。著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』で、「糖に毒された脳」を「糖毒脳」と名づけ、糖が認知機能を崩壊させるメカニズム、そして脳を守るための習慣を紹介している。同書から、一部を抜粋・編集し紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・石井一穂)

「認知症」になる人の兆候。文字を書くときに現れる“異変”とは?Photo: Adobe Stock

認知症になる人の兆候は「漢字やカタカナが出てこない」

 認知症になる可能性がある人に見られる、兆候がある。

 それは、「簡単な漢字やカタカナを思い出せず、手が止まる」ことだ。

 たとえば、こんな経験はないだろうか。

 交通費の精算書を書いていたとき。

 日付を書く。金額を書く。ここまでは問題ない。
 だが、訪問先の会社名を書こうとして、ペンが止まる。

 毎週のようにやり取りしている会社だ。
 担当者の顔も浮かぶ。
 オフィスの場所も知っている。

 それなのに、会社名に入っているカタカナの言葉が出てこない。

「イン……なんだっけ」

 頭の中では音がぐるぐる回っている。インテックだったか。インフォか。インターか…違う気がする。

 結局、名刺入れを開いて確認する。

「ああ、インサイトだ」

 見た瞬間に思い出す。

 別の日には、宅配便の送り状を書いていて手が止まる。「至急」と書こうとして、「至」の字が急にわからなくなる。

 毎日のように見ている漢字だ。頭の中には形のイメージがある。だが、自信が持てない。結局、スマホで漢字を検索する。

 読める。意味もわかる。普段の会話でも使っている。それなのに、いざ自分で書こうとすると、簡単な漢字やカタカナが出てこない。

 そんな場面が多い人は、少しずつ認知症のリスクが高まっているかもしれない。

認知症へとつながる「糖毒脳」という状態

「簡単な漢字やカタカナを思い出せず、手が止まる」

 じつはこれ、書籍『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』にある、「糖毒脳」の状態であるかを確認するチェックリストの1項目である。

「糖毒脳」とは、糖の影響により認知症に向いつつある状態の脳を指す言葉だ。

 元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家である下村健寿氏が提唱している。

過剰な糖によって脳が毒された状態を、私は「糖毒脳」と呼んでいます。
――『糖毒脳』より引用

 糖を摂ると、血糖値を下げるためにインスリンが分泌される。

 インスリンは脳内で「学習」や「記憶」を司る脳神経細胞同士の情報伝達をスムーズにしたり、アルツハイマー病の原因となる「アミロイドβ」などによる攻撃から脳神経細胞を守る役割も果たしている。

 しかし糖の過剰摂取が続くと、やがてインスリンが出づらくなったり、効き目が落ちたりしてしまう。

 脳を守るインスリンの分泌に異常がおきるため、結果として糖の摂りすぎが脳の認知症リスクを高めてしまうのだ。

 簡単な漢字やカタカナを思い出せず、手が止まる。

 この経験があり、さらには「糖を摂り過ぎている」自覚がある人は、いちど食習慣を見直してもいいかもしれない。

(本稿は、『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容を引用して作成した記事です)

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。