寺西化学工業が1953年に発売した「マジックインキ」寺西化学工業が1953年に発売した「マジックインキ」 Photo by Manabu Fushimi

学校の図画工作や荷物の宛名書きなどに使う油性マーキングペン。多くの人は「マジック」と呼ぶ。その名は、文具メーカー・寺西化学工業が製造、販売する商品「マジックインキ」から来ている。

発売当初はまったく売れなかったというマジックインキは、どのようにしてロングセラーになったのか。開発からヒットの裏側にあった物語をひもといてみよう。(フリーライター 伏見 学)

「マジック」といえば
誰にでも通じるほど名称が浸透

 はてなマークが大きく描かれたパッケージに、ずしっと安定感のある佇まい。多くの人が一度は手にしたことがあるだろうこの商品は、文具メーカー・寺西化学工業が製造、販売する「マジックインキ」である。

 1953年の発売から70年以上がたつ今も、段ボール箱への荷物の宛名書き、学校の図画工作授業での利用、工事現場のマーキングと、さまざまな場面でその存在感を放ち続けている。「油性マーキングペン=マジック」と一般名称として定着しているのは、この製品が積み上げた信頼の証だ。累計30億本を超える販売数もそれを裏付ける。

 いかにしてマジックインキはロングセラーになったのか。同社管理本部の今井孝史取締役に、誕生の経緯から現在の戦略まで、その全貌を語ってもらった。

米国から持ち帰られた
マーキングペンに感化されて……

 マジックインキの誕生は、戦後の混乱がまだ色濃く残る1950年代初頭にさかのぼる。きっかけは、事務用品などの専門商社・内田洋行の内田憲民社長(当時)が米国への視察団に加わったことだった。

「当時はまだ企業として米国に行くこと自体が珍しい時代でした。その視察において、スピードライという会社の展示会に訪れた内田さんが、フェルトペン先を使った新しいタイプの筆記具を見つけたのです」と今井氏は語る。