虫眼鏡で地球儀を観察する女性写真はイメージです Photo:PIXTA

「地球は丸い」と聞けば、疑う余地などないと思うだろう。だが近年、「地球は平面だ」「あらゆるワクチンは危険だ」「気候変動は嘘だ」といった科学の通説を否定する考え方が、世界中で広がりを見せている。なぜ人は専門家よりも「自分が納得できる証拠」を信じるのか。科学否定論が人を引きつける意外なメカニズムを、社会学者が解説する。※本稿は、松村一志『科学否定論はなぜ人をひきつけるのか』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

反ワクチンや気候変動を否定する
「科学否定論」とは何か

 地球平面説(Flat Earth)をご存知だろうか。その名の通り、地球が球体ではなく、本当は平面だとする議論のことである。

 地球が球体であることは、現代人にとって最も自明な知識の一つだろう。地球の自転や公転は小学校で習うことだし、宇宙から撮影した地球の写真や映像はほとんどの人が一度は見ているはずだ。そもそも「地球」という日本語からして「球体」を前提としている。だから、「地球は平面だ」などと言われても、馬鹿げていると思うのが普通である。

 ところが、2010年代後半から、アメリカを中心に、地球平面説が無視できないほどの広がりを見せていると、現地の新聞やテレビで相次いで指摘されてきた。かなり小規模ではあるが、平面説は日本にも入ってきている。

 地球平面説のように、科学の通説を否定する議論は、近年では「科学否定論(science denial)」ないし「否定主義(denialism)」と呼ばれている。

 日本語ではあまり見慣れないが、これらは欧米を中心に広く使われつつある新語である。極端な反ワクチン運動や気候変動否定論といった議論が、その代表例とされる。

 科学否定論と言うと、科学を全否定するものに見えるかもしれない。けれども、そこで否定されるのは、科学そのものではなく、あくまでも科学の通説である。例えば、「地球は球体である」とか「ワクチンは安全である」といった個別の主張がターゲットになる。

 そのため、科学否定論とされる議論も、往々にして「科学的」であることを標榜している。例えば、気候変動否定論は人為的な気候変動をめぐる論証を「科学的」に否定するものだし、創造論は進化論が「科学的」に間違っていると断じる。つまり、科学の通説を否定するに当たって、自分の方こそが本当の科学だと主張するのだ。その意味で、科学否定論は「疑似科学(pseudoscience)」の一種である。

科学の通説を否定する
「陰謀集団が仕組んだ」という論法

 通説を否定するための武器の一つが「陰謀論(conspiracy theory)」である。最近では、「陰謀論」という言葉がかなり広い意味で使われているが、厳密に言えば、それはある出来事を陰謀によって説明する議論を指す。つまり、ある目的を達成するために秘密裏に活動する陰謀集団が存在し、その集団が出来事を意図的に引き起こしたとするものだ。