「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく

なぜ日本の会議は「結論」から始めると失敗するのかPhoto: Adobe Stock

「結論ファースト」が機能する欧米と
機能しにくい日本

――坂田さんは長年、企業のコンサルティングに携わってこられました。日本企業の会議で難しさを感じることはありますか?

 はい、あります。日本の会議は、「会議の場で決まるようでいて、実は会議の前に決まっている」と感じることがあります。

 特に、「結論から話せ」と習った若手が、自分なりに整理した結論を会議で示しているにもかかわらず、結果として何も動かないという場面を何度も見てきました。これは、本人の伝え方が下手だからではありません。日本の組織における意思決定の構造を理解していないことが原因です。

 日本企業では、論理的に正しいことが、そのまま採用されるとは限りません。

 結論そのものの正しさ以上に、その結論を関係者がどう受け止めているか、納得感を持てているかが意思決定に大きく影響します。

 なぜなら、日本企業の意思決定は一人の判断で完結することが少なく、多くの関係者の協力や合意を前提としているからです。だから、結論をいきなり会議の場に持ち込んでも、関係者の認識が揃っていなければ何も動かせません。

 結論ファーストが失敗するのは、結論が間違っているからではなく、その結論を受け止める土台が整っていないからです。

――欧米企業の会議は、それとは違うのでしょうか?

 かなり違います。私が米国系企業に勤めていた頃、会議では若手が役員に反論することも珍しくありませんでした。それでも議論が成立するのは、「何を根拠に判断するか」という前提が共有されているからです。

 アメリカでは、学生時代からディベートの訓練を積む機会があります。ディベートとは、自分の意見とは関係なく、賛成・反対の立場に分かれ、エビデンスを積み上げて論理性を競うものです。つまり、「何が正しいか」を論理で検証する文化がある。だから、立場や空気に左右されずに議論しやすいのです。

 一方、日本には同じ意味でのディベート文化はあまり根づいていません。そのため、「何が正しいか」を議論によって決めるよりも、関係者の納得感や会議室の空気感が意思決定に大きく影響します。

 だからこそ、いきなり結論を持ち込んで全員で議論を始めるよりも、事前に認識を揃え、合意形成の土台をつくるプロセスが重要になるのです。

 これは良し悪しの問題ではありません。意思決定の仕組みそのものが違うのです。

日本の会議で重要なのは「空気を変えること」

――では、日本企業で会議を前に進めるためには何が必要なのでしょうか?

 私は、「空気をデザインすること」だと思っています。

 日本企業では、会議室に入る前に方向性がほぼ決まっていることが少なくありません。だからこそ重要なのは、会議の場で結論をぶつけることではなく、事前に関係者との認識を揃えておくこと、いわゆるステークホルダー・マネジメントです。

 ステークホルダーとは、株主、顧客、上司、部下など、意思決定に影響を持つ人たちのことです。その中で、誰がどの程度の影響力を持っているのかを把握し、誰とどの問いを共有するのか、どの順番で巻き込むのかを設計する。これが、日本企業における戦略的な意思決定のファシリテーションです。

「根回し」というとネガティブに聞こえるかもしれませんが、その本質は、事前に問いを共有し、関係者が同じ前提で議論できる状態をつくることです。

 会議の場で全員を説得しようとするのではなく、会議の前に「問いを共有し、空気を整える」。日本企業においては、それができてはじめて、結論ファーストが機能するのです。

――結論を伝える前に、まず「問い」を共有する必要があるということですね。

 そうです。結論を持ち込むのであれば、その前に「私たちは何を解こうとしているのか」という問いが関係者と共有されていることが大前提です。その問いに対して、一人ひとりが自分事として向き合える状態をつくってから会議に挑む。それが、ファシリテーターの重要な役割だと思っています。

 日本企業の会議で大切なのは、正しい結論を持ち込むことだけではありません。その結論が受け止められる状態をつくっておくことです。

 つまり、空気を読むのではなく、空気をデザインする。この感覚を体系的に身につけたい方は、拙著『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』をぜひ手に取ってみてください。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。